第一章、その4:盗賊の砦
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、実際はどうなんだ。本当に近衛なのか?」
「樫のマント羽織っていたんだぜ、本当だろ。それに、あの人が近衛騎士なのは当然だと思うな。なんせこの王国が出来たは三十年前の戦争の時、あの人の父上が頑張って戦ってくれたんだからな。クウィス男爵は亡くなられたが、あの方の御威光は国内に残っている」
「つまりは、あの人の縁故って訳か。まぁ、普通王様とその親族に近しい奴は、王様と親しい連中で固めるのが鉄則だからな。俺はそれ抜きにしても、あのお嬢ちゃんが凄いのは当然だと思うぞ。歩いている姿が凛々しくてたまらんかったし」
「お前、もう見たのかよ!?なんて羨ましい・・・」
「全く、さっさと見ておけよ?さっさとしねぇと、この国が独立を勝取っちまうぜ?」
「そんな夢御伽噺、俺にはもう似合わねぇよ」
何処か寂しげな言葉を最後に、賊達の言葉が明瞭に聞き取れなくなっていった。充分に離れていったらしい。だが慧卓は身動ぎ一つせず、虚空を見据えて思考を巡らした。
(三十年前の戦争、賊徒にも慕われる貴族。そして、非独立国・・・か)
此処に来て、慧卓は一気に現実に直面したような気がして、それまで高鳴っていた心が段々と冷めていくのを感じた。
先までの自分は何処か浮かれていたのかもしれない。見た事も無い厳粛で、幻想的な世界に心ををわくわくとさせて、己をどっぷりと童心の沼地に浸からせていたのだ。何処まで浸かろうが所詮は現実に相違無い。心を貶せば彼らとて悲しみと怒りを覚え、腕を切れば赤い血が噴き出るのだ。己もまた彼らと同じ人間として、只管に生の全うを追求せねばならない。そんな念が胸中に沸いて出てきた。
慧卓は己の心に冷静さを取り戻し、扉に耳をつけて外を窺う。
「・・・もう居ないな、っとぉ、いいの見っけ」
部屋から出ようとした時、慧卓は扉の近くに置かれていた小箱の上に、ひっそりと畳まれて埃を被っていた一着の檜皮色の上着に目をつけた。それを広げてみるに、がっしりとした体躯の持ち主でなくとも充分に着れるよう、小さめに作られている事が分かった。慧卓は埃を払い落としてそれを上から着る。若干古びれた臭いがするが、身体にぴったりと合う。
己の新たな服に感覚を慣らしていると、突然、上方の方より大きな轟音が響き渡り、部屋の内にまで震動が伝わってきた。ついで二つ目の轟音が鳴り響いて震動が生じ、薬瓶が棚から零れ落ちて破砕する。砦の内部で急に慌しく物々しい騒ぎ声がし始めた。
「なんだっ?急に騒がしくーーー」
「おいっっっ、早くしろぉ!!!」
「分かってる!!!!!」
扉の外より切羽詰った声が聞こえる。耳を澄まして聞いてみるに、慌てた様子で二人の男が疾駆しているようだ。其処へ別の声が問いかけた。
「お、おい、どうしたんだ?」
「寝ぼけてないで武装し
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