第一章、その4:盗賊の砦
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れでいいしょう。もし脱出を試みればそのうちに敵も気付くでしょうから、早いとこ、アリッサを助けるとしましょう」
「りょーかい・・・ってあれ?」
不意に熊美は慧卓へ鍵を投げ渡す。慧卓は鍵を確りと掴みつつも、鍵を投げ渡した熊美の意図が掴めず、慧卓は疑問符を口から零した。
「何でです?一緒に行きましょうよ」
「ん〜、確かに一緒に逃げるのも手だと思うの。でもね、私さっきあの人に言ったでしょ?『後で覚えてろ』って」
熊美は笑みを消して真剣な眼差しをして地面を見詰める。
「会ってたかが一日足らずだけどね、アリッサは私の中では立派な仲間なの。戦地へと共に吶喊し、背中を預けるに足る戦友。その人を、あの賊は阿婆擦れと侮辱したわ」
その言葉と共に一気に場の空気が張り詰めるのを慧卓は感じ、序で思わず怯えを抱いた。先まで柔和な笑みを浮かべていた熊美の顔に、紛う事無き憤怒の赤みが浮いていたのだ。歯を食い縛り、瞳を爛々と怒らせている。仲間への侮辱に激怒するその姿は慧卓が知らぬ姿である。それは当に、一人の夜の漢(或いは漢女)として電気の街を歩く者の顔ではない。悪鬼羅刹の猛将の顔であった。
「許してなるものか。必ず、奴の頭を打ち砕く。戦士の誇りにかけて、これを成就せねばならん!・・・理解してくれるか?」
「え、えぇ、勿論です」
顔に僅かに恐怖を浮かべて慧卓は逡巡の余地無く首肯する。途端に熊美の表情から険が晴れるのを見て慧卓は胸に安堵を覚えた。
「貴方は元来た道を走って外に出て、何処かに身を潜めていなさい。途中で山賊の服でもくすねるといいわよ。私はアリッサを救出した後に貴方と合流するわ...あら?」
ふと熊美が地下牢の扉の方へと鋭く視線を遣る。
「巡回の賊兵の気配がするわね。・・・もうすぐ離れて行くみたい。合図をした後に牢獄を出なさい。いいわね?」
「分かりました。・・・熊美さん、御無事で!」
「そっちもね」
慧卓は牢屋の鍵を開けて扉の前で待機する。頬に一つ、緊張から生まれた汗粒が流れた。扉の取っ手を掴み取ると、その冷たさを感じて嫌にはっきりと胸が弾む。慧卓は静かに深呼吸をすると、神経を集中させるように真正面を向いた。
「行きなさい!」
「っっっ!!!!!」
切り込まれた鋭い声に、弾かれるように慧卓は扉を開けて外に出て、扉を静かに閉めた。瞬く間に洞窟内のひんやりとした冷気が彼を出迎える。そして遠目では在るが、巡回の者らしき背中が洞窟内の通路奥に見え、今し方それが曲がり角を曲って消えて行った。
いよいよ以って、脱出の時である。慧卓は高鳴り始めた心臓の鼓動をうるさく思いつつ、冷静さを保とうと必死に言葉を胸中に湛える。
(落ち着け、慧卓。こういうのには特有のやり方ってのがあるんだ!)
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