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蒼き夢の果てに
第5章 契約
第68話 再び夢の世界へ
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教の教えに従う者と精霊の関係は最悪。
 更に、ラグドリアン湖の精霊と人間の関係は、水の秘薬と言う万能の薬がラグドリアン湖の精霊の身体の構造物で有り、医療技術の発達していないハルケギニア世界では、それを使用する以外に重病や重症の患者を救う手立てが少ない以上、他の精霊たちと人間の関係と比べても余計に悪い。

 そんな、自らの敵対者に等しい人間の暮らす世界の問題解決に対して、彼女が力を貸さなければならない謂れは有りませんから。

「わたしの事を人間の友人として扱ってくれたのはあなたが初めてだった」

 俺の独り言の如き台詞に対して律儀に答えを返して来る湖の乙女。そして、その答えは、俺に取っては、拍子抜けするぐらい当たり前の答え。
 そう。この程度の理由で人生をまたいでまで縁を結び、俺に対して力を貸してくれなくても良い、と思わずには居られない程、あっけない答え。

 しかし……。
 俺は、俺の正面に座る紫色の髪を持つ少女の姿を、自らの変わって仕舞ったふたつの瞳で真っ直ぐに見つめた。
 普段よりも因り強く彼女を感じる為に……。
 今までよりも、更に近く彼女を感じられるように……。

 そう。彼女の言葉が事実なら、それは間違いなく俺。
 それに、このハルケギニア世界の人間が、ラグドリアン湖の精霊を人間扱いする訳は有りませんから、彼女が俺を大切に思ってくれる事も理解出来ますか。

 単に、この世界の常識から、前世の俺が外れすぎていただけの事ですから。
 まして、精霊の生命とは人間や、それに近い種類。龍種や吸血鬼などと比べても、遙かに長い生命を持つ存在。俺に取って前世の出来事だったとしても、この目の前の少女に取っては、ついこの間の事で有る可能性すら存在する。
 その彼女に初めて顕われた友達が前世の俺ならば、彼女が俺に対して親愛の情を抱いてくれたとしても不思議では有りませんか。

 それならば、

「これから先もその幸せだった時間を作って行けば良い。それだけの事やな」

 食事中の軽い口調でそう答えて置く俺。それに、前世の俺が人間としての生命を全うするまでに何年生きたのか判りませんが、今回の生命は、それに何倍するか判らない寿命を持つ龍種にして仙人。
 簡単に彼女だけを残して、先に逝く事もないはずですから。

 俺の瞳を見つめた湖の乙女が、微かに首を上下させた。
 そう。それは、本当に微かな首肯き。
 しかし、そのメガネ越しの瞳に何か強い意志の輝きを乗せて首肯いたように、俺には感じられた。


☆★☆★☆


 寝台の上に眠る乙女は普段と何も変わりない雰囲気で、規則正しく胸まで掛けられた薄い布団を微かに上下させ続けていた。
 そうだ。彼女の発して居る雰囲気は、普段と何も変わりない物。悪夢に囚われた状態で
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