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蒼き夢の果てに
第5章 契約
第68話 再び夢の世界へ
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 音に成らない音が、闇の中に響いた。
 今日と昨日の狭間の時間。昼の間にも人口密度の低いこの屋敷内には、夜の静寂(しじま)に沈んだこの時間帯に余計な音が響く訳はない。

 そして――
 そしてまた、音が鳴り響く。この音は結界が無効化された証拠。

 俺の左腕に巻かれた古い腕時計のすべての針が同じ方向を指した瞬間、それが始まった。
 床から、壁から、天井から。じわじわと染みのように浮かび上がって来る黒き影。
 いや、違う。それは影ではない。何故ならば……。

 不気味にうねるように床へと広がって行き、ゆっくり、ゆっくりと深き水底から立ち上がって来るかのような黒き影。
 その影がまるで地下から続く見えない階段を昇るが如く一歩、また一歩と進む毎に大きく、そして徐々に高く成って行き……。

 刹那。蒼い闇に覆われていた室内に、強力な光源が発生した。

 そう。それは、俺の右手に発生した光輝。俺の霊気を受けて活性化した七星の宝刀が、それに相応しい光輝を放ち始めたのだ。

 恨むなら、俺を恨め!

 そう、何者かに願い(祈り)ながら、最初に顕われた黒い疫鬼に対して、下段より振り抜かれた蒼銀が一閃!
 右から左に抜ける光輝(ひかり)の断線が立ち上がった直後の疫鬼を上下に両断し、次の瞬間には、ビシャンと言うまるで床にバケツの水をぶちまけたような音と共に、元の黒い影へと還って行く。

 その瞬間、激しい衝撃が俺の心を埋め尽くす。
 俺の心をひりひりとさせるような……。すべてを焼き尽くすようなこれは……。

 怨念。

 まるで、触れた物すべてを陰火として燃え尽くすような疫鬼の怨みと執着が、俺の心に襲い掛かったように感じられたのだ。

 しかし!
 しかし、そんな怨みすらも無情に振り払い、俺は次の術式の構築を行う。

 果たして疫病をばら撒く奴らが悪鬼なのか、今の俺の心がそれなのか判らぬ様で。
 その瞬間、俺の左の頬に走る紅い一筋と、左脚に感じた身体の内側が弾けるような感触。

 次の瞬間、轟音と共に撃ち降ろされる雷光。俺の召喚した雷公の腕が、実体化した直後の疫鬼数体を貫き、まるで水風船が弾けるようなあっけなさで、黒い影から黒い染みへと還し、直ぐに元の何も存在しない通常の夜の寝室に戻って行かせる。

 しかし、そんな物は焼石に水。

 そう。何時の間にか俺の存在するタバサの寝室内は、真っ黒な影で覆い尽くされて居たのだ。
 そして、そいつらの目的は俺ではない。
 その醜悪な姿で、床を這いずるように、黒き影を引きずるように、天蓋付きの豪奢な寝台にて眠る蒼き吸血姫へと迫る。
 その瞬間、今度は、額と右のわき腹が弾けた。

(チッ)!」

 口訣の高速詠唱、導引省略の形で四方に呪符を
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