佐為
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和谷が指定したとは思えないスタイリッシュな喫茶店の入口で、待ち合わせ時間より10分早くヒカルと和谷は落ち合った。なるべく入口が見えるような席を選んで、カフェラテと紅茶をオーダーし、支払いを済ませる。ヒカルは紅茶にミルクと砂糖を入れ、カップ底を何度もかき混ぜる。いつものマックとは違って何だか落ち着かなかった。
「なんでマックじゃないの?」
「たまにはいいだろ、こういうのも」
「カフェのボックス席に男二人が向かい合って座るのもなんだかなー」
一口紅茶をそっと口に含み、冗談めかしく愚痴をこぼす。和谷は苦笑いを浮かべながらも答える。
「だってさ、初対面でマックって何か違くないか」
和谷にしては悩んだのだろうか。柄にも合わず。
「ま、いっか」
「そうだそうだ。それにここのランチセットすげーうまいって聞い・・・た」
からんからん。
和谷の言葉を詰まらせたのは、カフェラテでも店のドアベルの音でもない。呆けたような和谷の視線を辿ると、言葉通り、硬直する。ありふれた白いTシャツ、薄手のジーンズを着こみ、水色のショルダーバッグを肩に提げているその青年。透き通るほど肌は輝き、ストレートの黒髪をセミロングの位置まで垂らし、例えようもないほど美しい。見知ったその顔に打ちのめされる。頭に浮かんだのは、佐為、の二文字。喉の奥から枯れた声で、頭の声を意識もせず反芻する。
「佐、為・・・?」
すぐに彼はこちらに無邪気そうな顔を向けて、
「はい」
こう返してきた。その時俺の何かが飛んだ気がした。
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