―三年生、開始―
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ジェネックスやらオベリスク・ブルーのペンキ塗り直しやら長期休暇やら、色々なことが終わって、俺たちは遂に三年生を迎えた。
『これから』に向けて大事なこの時期に、今年ばかりは変なイベントに巻き込まれるのは御免だと思っているが……また何か起こらないかワクワクしている自分がいるのも事実である。
まあ二年生の時と同じように、俺たちの周りには大して変化は――無くもないが、そう劇的に日常が変わることなど早々ない。
そんな新学期だったが、俺はいつもの池で釣り竿を垂らしてボーッとしていた。
始業式の時間になるまでの暇つぶしのつもりで始めたのだけれど、やはりというべきか熱中しすぎてしまい、ふと時計を見ると始業式の時間が迫っていることに気づいた。
「遊矢、やっぱりここにいたのね。そろそろ始業式よ」
「悪い悪い」
本校の方から呆れ顔で歩いてきた、明日香に感謝して釣り用具を片付けようとしたものの、釣り竿が池に飲み込まれるぐらいの勢いで引っ張られた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ明日香! 大物だ!」
「まったく……」
背後で明日香の呆れたような声がしたが、二年間この池で釣りをしてきたにもかかわらず、こんな力で引っ張られるのは初めての経験だった。
太平洋のド真ん中ということで、魚自体は本土よりも元気であるのだが、この池にはそんな力を持った魚などいなかったはずだ。
釣り上げたいという気持ちと、どんなモノが釣れるのか確かめたいという思いが合わさり、力の限りリールを巻くがそれでは足りないようだ。
釣り竿が池に巻き込まれそうになったその時、俺の手に二つの手が重なって、釣り竿に新たな力が加わった。
「私も手伝うわよ、遊矢」
「ありがとう明日香……今だ!」
力を貸してくれた明日香と、不思議なほど息のあって釣り竿を引っ張ることが出来、池の中にいる何かを釣り上げることに成功する。
通常水の中に住んでいる魚というのは、陸上ではその身動きが出来なくなる筈なのだが、その釣り上げたモノは陸上であるにもかかわらずまだ動いていた。
何故ならそれは魚などではなく、長い吻と扁平な長い尾を持ち、背面は角質化した丈夫な鱗で覆われており、眼と鼻孔のみが水面上に露出するような配置になっている――
緑色の肉食性水棲爬虫類――ワニだったのだから。
「ワニ!?」
セブンスターズ事件の折りに、森の中で虎とエンカウントした時もそれは驚いたものだが、まさかワニを釣り上げるとは思いもよらなかった。
ワニは釣り上げたこちらを怒っているようで、こちらを見て威嚇しながら徐々に這い寄って来る。
「明日香、ワニって背中見せずに目を離さずに逃げれば良いんだっけ?」
「……それは熊よ、遊矢。じゃなくて早く逃げないと!」
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