序章 僕の選択
第三話 チュートリアル
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紅のパターンの中央部分が、まるで巨大な血液の雫のようにどろりと垂れ下がった。高い粘度を感じさせる、動きでゆっくりとしたたり、だけど落下することなく、赤い一滴は突如空中で大きく形を変えた。
出現したのは、身長20mはあろうかという、真紅のフード付きローブをまとった、巨大な人の姿をした何かだった。
なぜ、人の形、かと言うと、答えは簡単。実体が無い。
僕たちは地面から見上げている形なので、フードの中が見えるが、そこには、何も無かった。
フードの裏地がそのまま見える。
ローブそのものには見覚えはある。あれは、βテストのとき、アーガスの社員が務めるGMが必ずまとっていたものだ。でも、当時は、男性なら魔法使いのような長い白ひげの老人、女性なら眼鏡をつけた女の子のアバターが必ずローブの中におさまっていた。
何らかのトラブルで、アバターが用意できず、せめてローブだけでも出現させたのかもしれないけど、その姿に僕は不安を感じてしまった。
周囲のプレイヤーたちも同じだったのだろう、「あれ、GM?」「なんで顔無いの?」というささやきが、そこかしこから沸き起こる。
と、それらの声を抑えるように、ローブの右袖が動いた。
ひらりと広げられたローブの中から、純白の手袋が覗いた。しかし、袖と手袋も切り離され、その間に肉体は見当たらない。
続いて左の方の袖も掲げられ、こっちも純白の手袋が出てくる。
...うん。これなんてホラゲ?
不意にそう思ってしまったが、これはRPGなので、口には出さない。
直後、低く落ち着いた、よく通る男の声が、遥かな高みから降り注いだ。
『プレイヤーの諸君、私の世界にようこそ』
? どういうこと?
一瞬で、頭脳が硬直し、意味が考えれなくなる。
でも、背筋を悪寒が走った。
唖然と顔を見合わせた僕とクラインさん、キリトの耳に、赤ローブの何者かが両腕を下ろしながら続けた。
『私の名は茅場 晶彦。今やこの世界をコントロールできる唯一の人間だ』
「え...」
「な...」
驚愕のあまり、僕とキリトののどを詰まらせた。
茅場晶彦。
その名前を僕が知らないはずはない。
数年前まで、弱小ゲーム開発会社の一つだったアーガスを最大手と呼ばれるまでに成長した原動力となった、若き天才ゲームデザイナーにして、量子物理学者。
彼はこのSAOの開発ディレクターであると同時にナーヴギアの基礎設計者でもあるのだから。
僕は、一人のゲーマーとして、茅場晶彦を少し憧れていたし、将来は、茅場晶彦と一緒に働きたい、と思っていた時期も少しだけあった。
『プレイヤーの諸君は、すでにメインメニューからログアウトボタンが消失していることに気付いていると思う。し
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