第一幕その六
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第一幕その六
「これは一体どういうことだ。知っていることを述べてくれ」
「それがですね」
誠実の仮面を被ってから話すのだった。
「私にはわからないのです」
「わからないだと」
「そうです。つい先程まで誰もが礼儀正しい友人達でありました」
「それが急に変わったのか」
「左様です」
その誠実な仮面で語る。
「それが急に。悪魔が取り憑いたかの様に」
「変わったというのだな」
「剣を引き抜いてそれからです」
「カッシオ」
オテロはイヤーゴの話を聞いてからカッシオに問うた。
「御前は何故剣を抜いているのだ」
「申し訳ありません」
彼は謝罪するだけだった。
「返す言葉もありません」
「モンターノ、そなたは」
「私はこの通りです」
傷を見せての言葉だった。見れば腕を汚している。
「傷を」
「愚かな話だ。こんなことが起こるとは」
ここまで話を聞いておおよそのことがわかった。そのうえで顔を顰めさせる。そこに彼の妻であるデズデモーナがやって来た。黄金色の豊かな長い、波がかった髪に青く澄んだ瞳は優しく眩い光を放っている。透き通る様な白い肌の上に絹の衣をまといそれが艶やかな光沢を月の光の中に見せている。その顔は優しげでありながらも優美な気品と色気を漂わせている。そのデズデモーナがオテロのところにやって来たのだ。
「オテロ様」
「デズデモーナ、起きてしまったか」
「はい」
夫の問いにこくりと頷く。
「この騒ぎは」
「気にするな。カッシオ」
妻の姿を見て騒動を終わらせることにした。カッシオの顔を向けた。
「そなたの副官の任を解く」
「はっ」
カッシオは己の心の中を見せずオテロに己の剣を差し出す。イヤーゴはそれを見てほくそ笑むのだった。
「勝ったな、まずは一勝だ」
「イヤーゴ」
オテロは次にイヤーゴに声をかける。イヤーゴはすぐに実直な仮面を被ってオテロに対する。
「はい」
「御前は一隊を率いて街に向かえ」
「街にですね」
「それで平和を取り戻せ。いいな」
「わかりました」
イヤーゴは一礼してから一部の兵を連れてその場を後にする。去る間際にほくそ笑む顔になったがそれは誰も見はしなかった。闇の中で。
「そしてだ」
イヤーゴが去ったのを見てからオテロはまた言う。
「モンターノを助けよ」
「わかりました。それでは」
「モンターノ殿」
残っていた兵達がそれに応えてモンターノを左右から助ける。彼はその兵達に助けられながら城の中に向かう。オテロは続いて他の者達にも指示を出すのだった。
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