第百三十話 南蛮具足その八
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「何かとしぶとい男じゃがな」
「日輪を潰す為にもですな」
「我等も出ますか」
「そうする、足利義昭を始末しそこねたがそれは今思えばどうでもよいことじゃ」
些細なことだったというのだ、それは。
「今じゃ」
「今仕掛けることですな」
「我等の兵でも」
「では闇の中から集めよ」
闇の中でまた話があった、それは今も誰も聞いていなかった。
だが松永は織田家の進軍の中でその話を察した、そして彼の家臣達にそっと囁いたのである。今彼等は馬上にある。
「ふむ、長老に他の者達もじゃ」
「動くのですな」
「ここで」
「うむ、動く」
こう話す、その青い軍勢の中で闇の話をする。
「そのうえでじゃ」
「右大臣殿を消すと」
「そうするのですな」
「既に色々と手を打っておられる」
長老と呼んだ者への敬意も述べた。
「しかとな」
「では我等も」
松永のすぐ左後ろにいる家臣がここで言った。
「動きますか」
「殿を殺せというのじゃな」
「これまでの様に」
この家臣は平然と言った。
「そうされますか」
「公方様や三好家の様にか」
「はい、そうされますか」
こう問うのだった。
「今回も」
「いや」
しかしだった、松永はその首を軽く横に振った、そのうえで彼だけでなく他の家臣達にもこう言ったのである。
「わしは何もせぬ」
「何も、ですか」
「何もされないのですか」
「うむ、動かぬ」
こう言うのだった。
「決してな」
「しかし一族は既に動いています」
「右大臣殿の抹殺に」
「そうなっていますが」
「我等がここで動かぬのは一族の裏切りになりませぬか」
家臣達は松永に怪訝な顔で見て言葉を返した。
「それは」
「そうではないのですか?」
家臣の一人が真剣に問う。
「それは」
「違う」
松永はその家臣の言葉をすぐに否定した。
「それはな」
「どう違うのでしょうか」
「わしは殿はここでは倒れる方ではないと思っておる」
「だからですか」
「ここでは仕掛けるべきではない」
そう考えているからだというのだ。
「仕掛けても意味がない」
「ですが一族の方々は既に」
「十二家のうちの殆どがじゃな」
「松永家以外は」
つまり十二の家のうちの十一がだというのだ。
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