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オテロ
第一幕その三
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第一幕その三

「飲みましょう」
「酒をですか」
「そう。貴方も」
 ロデリーゴに話したことを隠して丁度そこにいたカッシオにも声をかける。もう彼は顔を真っ赤にさせている。ほぼ完全に酔い潰れていた。
「私はもう」
「まあそう言わずに」
 断る彼に赤いワインを入れた杯を差し出す。彼自ら入れたものだ。
「是非。飲んで下さい」
「だからもう」
「今日は勝利の日ですぞ」
 それをあえて語るのだった。
「ですから」
「しかし本当にもう」
「これは義務です」
「義務!?」
「そう、義務なのです」
 今度言うのはそれだった。
「総督とデズデモーナ様の婚礼を祝う」
「そうだな」
 二人の名、特にデズデモーナのそれを聞くとカッシオは顔を上げた。イヤーゴはそれを見て口元を僅かに歪めさせた。
(よし)
 そのうえで心の中だけで呟いたが。これは彼以外の誰にもわからなかった。
「あの人はまさに花だ」
「花ですか」
「天使だ」
「御聞きですね」
 イヤーゴは今度はそっとロデリーゴに囁く。
「今の言葉を」
「あの輝くばかりの美しさは歌人達を惹き付ける」
「しかも非常に慎ましやかだ」
 ロデリーゴはイヤーゴの言葉のままカッシオを見ながら彼も呟く。
「イヤーゴ」
「何でしょか」
 カッシオにもにこやかに言葉を返す。
「君もあの方を讃えて歌わないのかい?」
「ほら」
 カッシオには答えずにロデリーゴに囁くのであった。またしても。
「御聞きなさい。よくね」
「ああ」
「私は遠慮させて頂きます」
 またカッシオに顔を戻して述べる。
「私はただの批評家ですので」
「そうか。ならいい」
「申し訳ありませんが」
「それならそれでいいよ。ただ」
 ここでまた彼は言うのだった。酒に誘われて。
「あの人は本当にどんなに褒めても褒め過ぎるということはない」
「また言っていますね」
「そうだな。しかし」
 ここでイヤーゴの作った顔を見るのだった。しかし彼が顔を作っているのは気付かない。
「何かを恐れているな」
「喋り過ぎです」
 カッシオを指差して囁く。
「溢れんばかりの若さと酒がそうさせています」
「若さと酒がか」
「そうです。貴方の恋路を邪魔するあいつは女たらし」
「私の恋路を」
「そうです。悪知恵の回る女たらしです」
 言葉を付け加えるタイミングも狙ったものだった。
「御気をつけを」
「それでどうするのだ?」
「彼奴は酔うと訳がわからなくなります」 
 カッシオの酒癖が悪いことももう承知しているのだった。
「ですからどんどん」
「わかった。では」
「おおい、坊主」
 店の坊主には愛想がいい。
「酒を持って来てくれ。赤ワインをな」
「はい、只今」
 すぐにワインが来た
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