第四章
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その人がだ、こう私に言うのだ。
「貴女が無類のカレー好きと聞きまして」
「私が紹介したのよ」
ここで横から美沙子が出て来た、いきなりといった感じで。
「実はこの人私の従兄なのよ」
「あっ、そうだったの」
「そう、苗字が一緒でしょ」
「確かにね」
「まあ私も八条フードに就職することが決まってね。あっ、ちゃんと試験は受けたから」
縁故でないことは断るのだった。
「それであんたもね」
「八条フードの試験をなの」
「そう、外食部門のね」
それにだというのだ。
「そう思って歳三兄さんにあんたのことを紹介したの」
「当社の八条カレーに」
八条フード、八条グループの外食チェーンの中の一つだ。全国に展開している店だ。
「どうかと思いまして」
「調理ですか?」
「調理師の免許は」
「一応持ってます」
大学で取った、そうしたコースを受けていた。
「それでカレーも」
「作っておられますね」
「はい、自分で」
「そうですね、調理だけでなく商品開発も考えてます」
若田部さんはこう私に言ってきた。
「とにかくです、当社の試験を受けてみますか?」
「どう、佳代子」
美沙子も微笑んで私に言ってくる。
「悪くないでしょ」
「そうね、八条カレーって賃金も労働時間もいいし」
「何処かの議員さんになった会長の系列とかステーキ店と違うわよ」
外食には所謂ブラックも多い、だから私も就職先からは外している。
「そこらへんもしっかりしてるからね」
「そうよね、安心して働けるから」
「ではどうですか?」
若田部さんは私にまた尋ねてきた。
「当社の試験、受けてくれますか?」
「はい、是非」
私も笑顔で応えた、こうしてだった。
私は八条カレーの入社試験を受けてそのうえで合格した。入った部門は商品開発だった。そこで日々商品開発に勤しむことになった。
私は色々なカレーを考えてみた、それも自分で作って食べながら。
その中にはお店に出たものやレトルトもあった、失敗作も多かったけれどそれにはめげずに頑張り続けた。
だがある日だ、総務部門で働いている美沙子にこう言われたのだった。
「ねえ、最近ね」
「最近って?」
「うん、うちの部長がカレー食べてる時にね」
「私の開発したカレー?」
「そうなの、あんたが考えた季節限定の夏野菜カレーね」
「美味しくなかったとか?」
「美味しかったって言ってたわ」
それはよかったというのだ。
「栄養もあるってね」
「じゃあ合格?」
「カレー自体はね、けれどね」
それでもだというのだ。
「御飯がね」
「御飯がなの」
「ほら、白米でしょ」
総務部長が言われていたのはこのことだったらしい。
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