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オテロ
第三幕その五
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第三幕その五

「間違いない」
 オテロはそのハンカチを見て呟く。
「全ては消え去った。愛も苦悩も」
 デズデモーナが不義を働いたと確信したのだ。
「わしの心を動かすものは全て消え去った」
「蜘蛛の巣ですな」
 イヤーゴはカッシオに語るふりをして自分自身に述べていた。オテロを嘲って。
「心が底に落ちて嘆き巻き込まれ死んでしまう」
「恋のことか?」
「夢中になり過ぎ見とれていると騙されて陥ります。有頂天になるのは」
「止めた方がいいか」
「忠告ですぞ」
 穏やかな言葉で今度はカッシオに言う。
「わかってるよ。けれど恋は」 
 カッシオはのろけて言葉を続ける。
「枷と針の不思議な美しさ。それがヴぃー得るの糸を光に変えて軽やかに雲よりも白く雲よりも雪よりも白いもの」
「その通りです」
「おのれ」
 オテロはハンカチを見ながらカーテンの裏で憤怒の顔で呻いていた。
「許さんぞ。何があっても」
「くれぐれも夢中になり過ぎないように。よいですな」
「わかっているけれどね。おや」
 ここで城の外からラッパの音が聞こえてきた。それに返す形で大砲の音が鳴る。イヤーゴはその二つの音を聞いて何があったかすぐにわかった。
「ヴェネツィアの船が到着しましたね」
「どうやらそのようだな」
「さて、それではですね」
「うん」
 またイヤーゴの言葉に応えた。
「そろそろ総督も戻られますし」
「この部屋から去った方がいいな」
「そうです。ですから」
「うん、わかったよ」
 にこやかに笑ってイヤーゴの言葉を受ける。
「それじゃあこれで」
「はい」
 カッシオはイヤーゴに別れを告げて部屋を後にする。オテロは彼がいなくなってから慎重にカーテンから出て来た。その顔は憤怒で歪んでいた。
「どの様にして殺してくれよう」
「御覧になられましたな」 
 イヤーゴはその彼に憤怒の顔を向けて囁いた。
「あの男が笑っていたのを」
「うむ」
 オテロは憤怒の顔のままでイヤーゴの言葉に頷いた。
「よくな」
「ではハンカチも」
「それも見た」
 またイヤーゴの言葉に頷く。
「どれもこれもな」
「万歳!」
 遠くから人々の歓喜の声がする。
「ようこそ来られた!」
「待っておりましたぞ!」
「イヤーゴ」
 オテロはテラスの外から聞こえるその声を聞きながらイヤーゴに対して言うのだった。
「毒薬を用意しろ」
「毒薬ですか」
「そうだ」
「獅子の旗に栄光あれ!」
 また後ろから声が聞こえる。
「それであの女を」
「いえ、それよりも」
 あくまでオテロの忠実な部下を装って彼に話す。
「絞め殺す方がよいのでは」
「絞め殺すのですか」
「そうです」
 耳元に来て囁く。心に染み渡らせるように。
「あの人
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