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オテロ
第三幕その三
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第三幕その三

「潔白だというのか」
「そうです」
 彼女はそのつもりだった。しかし今のオテロはそれを信じることができなくなっていた。毒のせいで目も心も見えなくなってしまっていたのだ。
「どうされたのですか、オテロ様」
 恐怖に震える顔で夫に問う。
「急に。そのような」
「悪魔の戯言だ」
「悪魔ではありません」 
 それも否定する。
「私の心は神が御存知です」
「戯言だ。地獄が待っている」
 それも否定するのだった。
「これ以上は言わぬ。下がれ」
「どうされたのですか、本当に」
 普段とはあまりにも違う夫に対して問う。
「貴方は。今の貴方は」
「わしは何でもない」
「違います。今の貴方の御心は」
 デズデモーナは感じていたのだ。
「悲しみを感じます。そして私はその苦い悲しみの理由を知らない。何が私の罪なのか:
「それをわしに問うか」
 また険しい顔を妻に見せる。
「己の百合の様な白い額に記された御前の邪悪な罪をな」
「邪悪な罪を」
「御前は自分が汚れた娼婦でないというのか」
 遂にはこうまで言うのだった。
「自分自身を」
「いいえ」
 真っ青な顔で首を横に振って答えた。
「私はそのような」
「まだシラを切るのか」
「主の信仰の心のままに」
「黙れ!」
 遂にオテロは立ち上がった。そしてその激昂を妻にぶつけた。
「それ以上言うな。もう我慢できぬ」
「ああっ!」
 デズデモーナの手を掴んだ。そしてそのまま扉の方まで行き。
 無理矢理彼女を部屋から押し出した。それから扉を力任せに閉める。それでもう妻の声も姿も彼の前から消えた。彼はその扉から離れると大きく嘆息して部屋の中央に来たそのうえで言うのだ。
「あらゆる悲惨な恥ずべき不運がわしを襲う」
 己が不運に囚われたと嘆くのだった。
「戦場で勇敢に戦い手に入れた勝利は廃墟となり苦悩と恥辱の残酷な十字架を背負うことになった。穏やかな顔で神の意志に従い見果てぬ夢は奪われた」
 ただひたすら嘆く。
「太陽も微笑みを与えてくれた光も消え去り薔薇色の慈悲深き微笑みを持つ精霊達も聖なる顔を恐ろしき地獄の不吉な仮面で覆い。何もかもが罪に包まれていく。何故ここまで苦しまねばならないのだ」
 そう嘆いていると。扉が開きイヤーゴがやって来たのであった。
「それで証拠は」
「お待ちを」
 忠実の仮面をここでは被っていた。
「間も無く来ます」
「そうか。間も無くか」
「はい、ですから」
 そうしてオテロに言うのだった。
「お隠れを」
「カーテンの裏にだな」
「そうです」
 それをまた告げる。オテロはそれに頷きテラスの方に向かいそこの柱廊を覆うカーテンの裏に隠れた。彼が隠れると同時にカッシオが入って来たのだった。
「閣下」

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