第二幕その五
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第二幕その五
「後はあの男のところに隠しておくか」
「不貞を働いたのだ」
オテロはその中で呟いている。
「わしを裏切ったのだ」
「よし、苦しむのだ」
そんなオテロをみてほくそ笑む。
「その方が毒がよく回るからな」
「閣下」
また実直な軍人の仮面を被ってオテロに応える。
「そのことはお考えなさるな」
「・・・・・・黙れ」
オテロの声はこれまでになく暗いものになった。
「はっ!?」
「黙れと言っているのだ!」
今度は叫ぶのだった。イヤーゴに顔を向けて。
「ここを去れ。貴様はわしを十字架にかけた。あらゆる恐ろしい侮辱よりもさらに恐ろしい侮辱は邪推だ。貴様はそれをわしに吹き込んだのだ」
「そうでしょうか」
「自覚がないのか。だが言おう」
オテロは言葉を続ける。
「妻が人知れず淫らな悦楽に耽る時わしの胸は不安に慄いたか。いや、わしは大胆で陽気で夢中だった。あの者にカッシオを感じることはなかった」
カッシオについて語る。
「あの唇にも。だが今は」
そして言う。
「さらばだ、全ての神聖な思い出よ!」
天に向かって叫ぶ。
「心の高貴な法悦よ。輝かしい軍隊も勝利も尊敬の軍旗も」
彼にとってはどれも誇りそのものだった。軍人である彼にとっては。
「飛び交う矢も駆け行く馬も。響き渡るラッパも雄叫びも歌も。これがオテロの栄光の終わりだ!」
「ですから閣下」
イヤーゴは善人の顔で彼に声をかける。
「お心を」
「黙れ、悪党が!」
またオテロは叫ぶ。
「妻が不義を犯したというその証拠を持って来い」
「証拠をですか」
「そうだ。いいか、逃げるな」
血走った目で彼に告げる。
「御前を助ける者はいない。わしはこの目で見える確かな証拠を欲している」
「確かな証拠を」
「そうだ」
それをまた言うのだった。
「さもなければ貴様の頭上に恐ろしい雷が落ちるだろう。いいな!」
ここまで言うとイヤーゴの喉を掴んで地面に叩き落した。だがイヤーゴは冷静なままで立ち上がりながらオテロに対して言葉を返すだけであった。
「神よ」
敬虔なふりをするが神の名を出すその口の端は微かに歪んでいる。
「私を御護り下さい。今は正直は災厄であるようです」
「正直だと」
「そうです」
彼はまた実直な男のふりをするのだった。
「ですからこれで。私は御暇致します」
「いや、待て」
オテロはそのイヤーゴを呼び止めた。
「御前は正直者なのだったな」
「嘘吐きの方がましでした」
彼は言う。
「これでは」
「わしは妻が誠実であることを信じている」
オテロはこう前置きする。
「しかしそれと共にその逆も信じる」
「その逆もまた」
イヤーゴはオテロに言葉を返した。
「左様ですか」
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