第二幕その四
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第二幕その四
「お顔が」
「わしの顔がどうした」
「お声も」
オテロの声にも気付いた。
「揺れておられますが。どうして」
「何でもない」
「いえ」
オテロの言葉に反してハンカチを取り出した。それで彼の額を拭こうとする。
「これで汗を」
「その必要はない」
「あっ」
手を払うとそれでハンカチが落ちた。
「オテロ様、どうして」
「・・・・・・何でもないのだ」
こめかみを震わせながら答えた。
「放っておいてくれ」
「オテロ様・・・・・・」
困惑した顔になる妻を置き踵を返してその場を後にしようとする。しかし背を向けたまま止まるのだった。ハンカチはエミーリアが手に取るがそこにイヤーゴが来た。
「頼みがあるのだが」
「何だい、御前さん」
エミーリアは夫に顔を向けて問うのだった。ハンカチは手に取ったままだ。
「そのハンカチをくれ」
「ハンカチをかい」
「そうだ」
「ちょっとこれは駄目だよ」
彼女は夫の言葉を断ろうとする。
「奥様が大事にされているのだし」
「それでもだ。ちょっと用があるのだ」
「用が?何だい?」
「実はな」
物静かな夫の顔で述べる。
「友人が香水を持っているのだ」
「香水をかい」
「門外不出の品だがそれを少しだけ使ってくれるそうだ」
「ああ、それなら話がわかるよ」
エミーリアもまた夫の素顔を知らなかった。知っているのはイヤーゴ自身だけだ。
「奥様にその香水の香りをってわけだね」
「特別にトルコから取り寄せたものらしい」
この時代はトルコの方が遥かに文化も文明も進んでいたので香水もまた進んでいたのである。
「それをな」
「わかったよ。それじゃあ」
納得して夫にハンカチを手渡す。その横ではデズデモーナが困惑した顔で背を向ける夫に対して声をかけていた。
「私は貴方の慎ましやかで大人しい妻です。ですが貴方はそうして背を向けられて」
「わしは色も黒く歳も取ってしまった」
オテロは呟いていた。デズデモーナに背を向けたまま小さな声で。
「それはわしが世に疎く巧妙な愛の罠を知らないということもあるからだ」
「私は貴方を愛しています」
デズデモーナの必死の言葉は続く。
「ですから貴方の御心も」
「さて、これでよし」
イヤーゴは妻からハンカチを受け取ってほくそ笑んでいた。
「これでな。また一つ駒を手に入れたぞ」
「わしの心は破れ泥に塗れ黄金の夢を見る」
「さて、これで奥様も満足して頂けるわね」
「オテロ様、どうか」
「・・・・・・後でだ」
オテロは結局振り向かなかった。
「今は一人になりたいのだ」
「・・・・・・わかりました」
デズデモーナも頷くしかなかった。彼女はエミーリアと周りの者達に慰められつつその場を後にす
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