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ラ=トスカ
第一幕その五
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。歌が終わると彼女にこう言った。
「貴女の歌声は私の心を和ませたのと同じ様に多くの神の子達に優しい涙を流させる事になりましょう。そしてそれは神への愛と祈りに通じる道でもあるのです」
 その言葉にトスカは感涙した。そして法皇に跪いた。法皇は彼女を立たせ言った。
「さあお行きなさい。そして貴女の歌で神の慈愛と信仰を世に広げるのです」
 こうしてトスカは還俗し歌手となった。チマローザの下で育てられ短く切り揃えられた髪も長くなりその歌と美貌は日増しに輝かしいものとなっていった。
 彼女のデビューはパイジェッロの『ニーナ』、タイトルロールであった。幾十とカーテンコールに呼ばれる程の盛況でその話を聞いたスカラ座やフェニーチェ歌劇場にも呼ばれるようになり瞬く間にイタリアを代表するソプラノとなった。その技術は素晴らしくどの様な難解な歌も歌いこなした。美しい舞台姿も評判となり役柄も多かった。
 ローマでも歌った。とりわけ法皇の御前で歌う事が多かったが歌劇場でも歌った。アルジェンティーナ座で師でもあるチマローザの『秘密の結婚』に出ていた時そこで絵を描いていたマリオ=カヴァラドゥッシと会い今に至る。
「何故鍵を掛けていたの!?」
 教会の中を疑わしげに見回す。
「教会の番人がそうしてくれって言ったんでね」
「そう。で、誰とお話してたの!?」
 疑わしげな目でカヴァラドゥッシを見上げる。
「誰とも話なんかしていないよ」
「嘘、話し声がしたわ。他の女の人と一緒だったのでしょ!?」
「違うよ、信じてくれないのかい?」
「信じないわ。貴方みたいな人誰が放っておくというのよ」
「ちょっとフローリア」
 むくれるトスカを宥めようとする。
「そんなに僕はもてないよ。君は一体何でそんなにふくれるんだい?焼きたてのパンじゃあるまいし」
「えっ、それは・・・・・・」
 今度は顔を赤らめた。視線を恋人から外した。
「もてないけれど君一人にもてたらそれでいいさ」
 そう言ってトスカを抱き寄せる。
「駄目よ、いけないわマリオ。聖母様の前でそんな事」
 両手の平で恋人の胸を押し止める。

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