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ラ=トスカ
第一幕その四
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信じていた。兄に反論しようと思えば出来た。だがそれをあえてしなかったのは兄が指摘した事を彼はよく知っておりそれに対し彼も思うところがあったからである。
「最近あの男はとかく専制的になってきている。王以上にな。まるで皇帝の様に振る舞いだしたという。だがそれを見極め結論を出すのは御前だ。よく考えて決めろよ」
「うん・・・」
 今度は頷いた。
「では私はこれで失礼する。これからファルネーゼ宮に戻り陛下と御会いしなければならないからな」
「うん。じゃあ兄さんも元気で」
「うむ。今度二人で飲もう。トカイのいいのがある」
「トカイか。楽しみにしてるよ」
 挨拶を交わすとアルトゥーロ=カヴァラドゥッシは教会を後にした。兄を見送るとマリオ=カヴァラドゥッシは教会の扉に鍵をかけ絵に掛けてある布を引き降ろし仕事に取り掛かった。
 暫く描いていたが絵具が切れた。絵具を取る時そのすぐ側に置かれている籠が目に入った。
「ゼッナリーノの奴またこんなに持って来て」
 籠を右手に取り中身を見て苦笑した。
「昼食ならともかくおやつには多過ぎるだろうに。まあ後でゆっくり食べるとするか」
 籠を元の場所に戻した時礼拝堂の方からガチャリと音がした。
「!?」
 咄嗟に柱の陰へ隠れた。顔をソッと出して覗き見るとアンジェロッティ家の礼拝堂の扉が開き中から人が出て来た。
「あれは・・・・・・」
 礼拝堂から出て来た人物をカヴァラドゥッシは良く知っていた。幼い頃からの友人であり思想的、政治的にも同志であるからだ。
「アンジェロッティ、君か!」
 思わず柱の陰から身を現わした。アンジェロッティは柱から人が急に現われたのを見て思わず肝を冷やしたがそれが自分の知っている人物と解かりアンジェロッティも思わず声をあげた。
「カヴァラドゥッシ、君か!」
 二人は駆け寄り抱擁し合った。二人の顔に喜びの色が現われた。
「良かった、スカルピアに捕われたと聞いて心配していたんだ」
「サン=タンジェロ城に今まで入れられてたけれどね。もう少しで暗殺されるところだったんだ。それを弟と妹が救い出してくれたんだ」
「そうか、それは良かった・・・・・・。で、これからどうするつもりだい!?」
「それなんだが・・・・・・」
 その時教会の外から女の声がした。
「!?」
 その声は高くはりがありそれでいて澄んだ美しい声だった。その声の主をカヴァラドゥッシは非常に良く知っていた。
「マリオ、マリオ」
 自分の名を呼ぶその声の主が誰か彼は知っている。アンジェロッティの方へ顔を向け右目を瞑って言った。
「レディだよ。僕が良く知っている人でね。善良で信心深いがとても焼き餅屋のね。悪いけれど少し隠れててくれ」
 カヴァラドゥッシの言葉にアンジェロッティは頷き礼拝堂の中に入って行こうとした。
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