第五幕その三
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下士官が退き士官が軍刀を抜いた。
(いよいよね・・・・・・。マリオ、上手くやってね)
士官が軍刀を振り上げた。兵士達が一斉に銃を構える。トスカは銃声が聞こえないように手で耳を隠した。そしてカヴァラドゥッシに対し上手く倒れるよう頭で合図した。
カヴァラドゥッシは頷いた。そして声には出さず口だけで彼女に言った。
サ・ヨ・ウ・ナ・ラ
と。
(まあ、本当に役者ね)
それを見てトスカは笑った。同時に軍刀が振り下ろされた。
銃声が刑場に轟いた。カヴァラドゥッシは後ろへのけぞった。そして前に倒れ横に転がりうつ伏せになり止まった。
下士官が彼に近寄り注意深く見る。スポレッタも来た。
下士官が腰から拳銃を取り出した。倒れ込むカヴァラドゥッシの頭にそれを近付け最後の一撃を与えようとする。だがそれをスポレッタが止めた。
スポレッタは下士官を遠ざけた。そして自分の着ていた外套を脱ぎそれをカヴァラドゥッシにかけた。そして十字を切り彼から離れた。
士官が兵士達を整列させる。下士官は置くにいる番兵を呼び戻す。士官とスポレッタは互いに敬礼し合い士官は兵士達を連れ階段を降りて行く。スポレッタも下士官と番兵を連れ場を後にする。トスカと擦れ違う。彼女に一礼するがどういうわけか目を合わせようとはしなかった。
スポレッタ達も去った。銃の硝煙も消え静まり返った処刑場にトスカとカヴァラドゥッシだけがいた。
「マリオ!」
トスカは二人の他に誰もいなくなるのをもどかしく待っていたのだ。どれだけ長かっただろう。だがもう誰もいない。場には二人しかいない。カヴァラドゥッシの下へ駆け寄った。
「さあ行きましょう、早く!」
外套を取りカヴァラドゥッシを揺り動かす。だがカヴァラドゥッシから返事は無い。
「どうしたの!?ねえマリオ、マリオ!」
次第に怖くなってくる。揺り動かしが強く激しいものになっていく。
手がカヴァラドゥッシの腕に触れた。その時腕に着いたものを見てトスカの顔から血の気が引いた。
「血・・・・・・そんな・・・・・・・・・マリオ!」
その時だった。カヴァラドゥッシの身体がピクリ、と動いた。
「・・・・・・フローリア・・・・・・・・・かい?」
顔をトスカの方へ向けてきた。その顔には生気があり死者のものではなかった。
「マリオ・・・・・・良かった・・・・・・・・・」
起き上がるカヴァラドゥッシに抱き付いた。黒い瞳から歓喜と安堵の涙が溢れ出てくる。
「フローリア・・・・・・」
カヴァラドゥッシもトスカを抱き締める。二人は強く抱擁し合った。
「もし・・・・・・もしもの事があったらって・・・・・・・・・私、怖かった・・・・・・・・・」
トスカは泣きながら言った。涙がカヴァラドゥッシの青い上着を濡らし藍色にしていく。
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