第五幕その二
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後の」
トスカは旅券を懐に入れながら言った。この時手に何かが当たった。それが何かすぐに思い出した。
「えっ!?」
「あの男は貴方の命か、私の愛かを要求してきたの。じりじりと私に迫って来たわ。何とか拒もうとしたけれど無駄だったわ。そして遂に私は彼と約束をしたわ。私は覚悟した・・・・・・。けどその私の目に光る刃が入ったわ。あの男はこの旅券を作り私を抱き締めに来たわ。けれどその時に私はあの男の胸に刃を突き刺したの」
「君がこの手で・・・・・・。僕の為に・・・・・・」
トスカの手を取りそう言った。
「その為にこの手が血に塗れるなんて・・・。白く美しいこの手が・・・・・・」
「貴方の為なら私は血に塗れても構わないわ。だって貴方は私が愛する唯一人の人だもの」
「フローリア・・・・・・・・・」
トスカを思い切り強く抱き締めた。
「チヴィタヴェッキアから海に出ましょう、舟で」
「うん」
「その前に大事な仕事があるわ」
「処刑場だね」
「そう、その時これを持って行って」
そう言って懐から何か取り出した。
「それは・・・・・・・・・」
それは十字架だった。普段トスカが首から提げているものとは違い妙に大きい不思議な感じのする十字架だった。
「ファルネーゼ宮である方から頂いたの。緑の瞳をした紅い服の方ね。何かある時必ず護ってくれるだろうって。これから貴方は銃の前に立たなければいけないでしょ。御守りに持って行って」
「けど僕は・・・・・・」
断ろうとするがその十字架とトスカの真摯な顔を見て彼は考えを変えた。
「有り難う、頂くよ」
「うれしい」
そしてその十字架を上着の胸の部分にあるポケットに入れた。奇しくもスカルピアが刺されたのと同じ場所だった。
カヴァラドゥッシが胸に十字架をしまい終えてすぐだった。看守とスポレッタが一緒に礼拝堂へ入って来た。何故一緒だったかというと深い意味は無い。二人共カヴァラドゥッシを呼びに行こうとしてたまたま一緒になっただけである。
「解かってる、用意は出来ているよ」
「はい」
行こうとするカヴァラドゥッシにトスカがそっと近付いた。そして小声で囁く。
(上手くやってね。最初の銃声で倒れるのよ)
(うん)
カヴァラドゥッシも答えた。
(そして私が呼ぶまでは立たないで)
(解かったよ。舞台でのフローリアみたいにすればいいんだね)
(そうよ)
二人に連れられカヴァラドゥッシは礼拝堂を後にした。トスカはスポレッタに自分も付いて行きたいと頼み込んだ。スポレッタはしばし考え込む顔をしたが結局それを認めた。
「けれど、本当に宜しいのですね?」
暗く悲しげな顔でトスカに念を押した。
「?」
トスカはスポレッタが何故そんな顔をするのか解からなかった。パルミエーリ伯爵という人物が
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