第伍話 《真っ黒》〜後編〜
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理解できていた。
「……なぁ、シキ。このままじゃ、お前死ぬぞ」
「……わかってる」
影也の軽口のような何気ない一言も、簡単に受け入れることができた。
そんな気がしたから、それだけの理由だが、シキは自分がもうすぐ死ぬということは理解できていた。
「わかってるのに、何もしないのか?」
「……俺は殺したくないんだ」
「自分が死にかけてるのにか?」
「それでもだ」
「このままじゃ、死ぬぞ?」
「俺は、誰も殺したくなんて、ない」
シキのそんな台詞に、影也はただ溜息を吐きこぼした。
そして、ぞわりとシキの背中に悪寒が走った。本能的に右足を半歩下げる。
それと同時、シキに赤黒い斬線が襲いかかり、シキの前髪を何本か引きちぎり、斬線は背後へと飛んでいく。
禍々しい赤黒い刃のダガーを逆手に持つ影也はシキの背中から五メートルは離れた場所へと着地し、「へぇ」と感嘆の声を漏らした。
「よくかわしたな。褒めてやりたいぜ」
「素直に褒めりゃあいいじゃねぇか」
背中を冷たい汗が伝うのを自覚しながら、それでも笑った。
後腰のダガーを抜き、シキは気付いた。
「線が、見えない……?」
呆然とした様子のシキに影也は笑いながら、
「そりゃ当然だろ。元々この眼は俺の物だしな」
嘲笑うかのような調子で言って、影也が再度飛びかかってくる。
今度は影也の動きをしっかりと目で追える。
攻撃の軌跡は、右脇腹から右肩へと抜ける。食らえば即死は免れないだろう。
赤黒い凶刃の軌跡に自身の鋭い銀色の刃を割りこませ、受け止める。
ガキィィィン、と刃と刃がぶつかり反響音を撒き散らす。
だが、影也はそこで動きを止めず、鍔迫り合いの状態のままでぐるりと身体を回転させ、シキの腹へと回し蹴りを打ち込んだ。
「ごふっ……!」
シキが腹に圧力を得、僅かに浮遊感を味わうと同時、後頭部へと踵が振り下ろされ、赤黒の液体で濡れている地面に叩きつけられる。
「何だよ。もう終わりか? 俺もお前も、どうせこの世界じゃ死ねないんだ。もっと楽しもうぜ」
謎めいた言葉を吐きながら、影也はシキを見下ろした。
シキを見下ろすその目は、羨望のようでも、嫉妬のようでもあった。
「どういう、意味だ」
よろよろと立ち上がりながらのシキの質問だったが、当の影也は答える気がないらしく無言でシキから数歩離れた。
シキが腹食らった蹴りの痛みで数歩よろけた直後、影也の足元の水がバシャン、と大きく跳ねた。
ふらついたシキの身体に斬撃が襲いかかり、左肩を深く切り裂いた。
「なっ……!?」
そこは先程まで頭部が存在していた場所であり、もしシキがふらついていなければ、既にシキの頭部は左右に真っ二つになっていたであろう。
ヒュウ、とシキの耳元で口笛が鳴った。
「運がいいな。それとも、運命か? ……まぁ、それ
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