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Dies irae~Apocalypsis serpens~(旧:影は黄金の腹心で水銀の親友)
エピローグ アーネンエルベの夜に
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シトシトとドイツのベルリン雨が降る中で傘を差し、夜となって雨足が強まっている最中、一人の男性が通りがかった喫茶店に入る。

「いらっしゃいませ」

アーネンエルベという名前のバーとも喫茶店とも判別がつかないような店。位置取りは寂れているが、中々に雰囲気は良いものだと男は思う。

「いい出会いがありそうな気がしてね、ちょっと居座っていいかい?」

冗談めかしたように入ってきた客の男性がそういう。店で接客をしてるであろう女性は眉を顰めるがチップを多めに差出、見逃してもらうことにし、それと一緒に注文を取る。

「リンツァートルテと―――フリースラントの紅茶を」

何となく、甘いものも紅茶も言うほど好きではないが何かに惹かれるようにそれを頼んだ。しばらくして紅茶とお菓子を楽しみ席についていると、ドアの鐘の音を鳴らしながら新たに客が一人、入ってくる。

「相席、構わないかね?」

「―――どうぞ」

雨で客足が遠のいており、明らかに空席が目立つにもかかわらず、目の前の客は相席を所望した。予感がしていた。だがそれでも、珍しいこともあるものだとは思う。これも女神の寵愛か。そう思いながら彼らは互いに出会いを得た。

「久しいな。そして初めましてだ。メルクリウス」

「こちらこそ、というべきかね?アグレド」

雨は未だに止む気配を見せなかった。




******




メルクリウスとアグレド。旧知であり初対面の二人は共に相席しながらもしばらくは言葉を発さなかった。メルクリウスが頼んだ紅茶が半分くらいまで減り、冷め始めたころ彼は口を開く。

「まさか、君がここに来ているとは思わなかったよ。まだ、私に隠し事をしているのかね?」

ここ、とはアーネンエルベのことを指しているわけではない。この世界に、という意味でだった。アグレドのいる場所は座の影響こそ受けるが、それとは関係なしに彼を閉じ込める檻なのだ。にも拘らず、彼がその檻から出ている。状況次第では一大事と言えよう。
そして、それが万が一、彼の信奉する女神に危害が及びうるものであれば彼はこの場で全力を開放することすら厭わないと、そう暗に仄めかす。

「いいや、別に何の理由もない。ただ単に偶然が重なっただけだ。偶々、偶像なりうる存在がいて、外に出ることを許されて、ここでお茶を飲もうと思っただけだ。総ては意図してやったことではない。偶然が重なりあった結果だよ」

或いはそうなるように仕組んだか。彼の思惑を読み切ることは、座から離れた彼には出来ないし、しようとも思わない。何故なら彼らは彼らなりの信頼を築き上げているのだから。
こと、彼らに限っては互いの詐称を知るが故に互いを信じている節もある。友であり、同種であるからこそ彼らは共に信じている。

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