暁 〜小説投稿サイト〜
あー、君。今日から魔法少女ね。
突発的魔法少女
[1/5]

前書き [1] 最後 [2]次話

自分を褒めてやるつもりなど毛頭無いが、事ここに至って冷静さを失わずにいたのは自分でも驚きだった。
建設途中なのかは知らないが、剥き出しの鉄骨が見え隠れするビルの頂上(屋上、とは言い難い完成度だった)で、そこそこに強い風を受けながら直立不動の体勢でいる自分、掌には汗が流れ出て支流を作っており、足も若干震えている。
そのような状態に置いてなお、独白系小説の地の文が如き思考を保っていられる謎の冷静さ。
単に現実感が無いのが冷静さの秘訣なのか、それとも私の中に眠る何かしらの素質が目覚めたのか、恐らくは前者だろうが。

 想像してみて欲しい、自宅でパソコンデスクの前に座って居眠りしていたら地上からざっと五十メートルは離れているであろう場所にワープ。
ね、現実感無いでしょう?ボブも驚きの早業、これが夢や幻でなくてなんだというのか。そして私は誰に語りかけているのか。
これがドッキリというやつならば私はカメラの向こうに語りかけている風になるのだろうが、生憎これは思考である。
口は先ほどから戦慄いたままピクリとも動かない。何故かというと私は高いところが苦手だからだ。
傍から見れば滑稽だろう私の様子は、果たして全国ネットで流されているのだろうか。
だとしたら、私はドッキリ大成功の看板を持って現れたテレビスタッフを殺す自信がある。割とマジで。
というか、私は何時までここにいればいいのやら。ここから降りる方法は無いのだろうか。
周囲を見回して見ると、なんとも頼りなさそうな梯子が、鉄の骨組みに隠れて地上まで伸びている。
あんな物で人体の体重を支え切れるのだろうか。私を不安が襲う。しかし、あれ以外に私を不安から解き放つ術は無いのだ。
意を決した私は、そっとその場から一歩を踏み出す。私の偉大な決意の一歩に風が吹き、足場が揺れ、私はチビリそうになった。
「はわ、は、はひひひ、ふ、ひょへ……?」
 こわばってまともに動かない私の口が、意味のない音を羅列する。思考は極めて冷静なのに、何なのだろうこれは。
まぁ、今はそれよりもこの足場から地上へ舞い戻る方法を考えなければ。どうしよう、どうすればいい。
「おや、何をしているんだい?ここに居た魔女はもう倒したんだろう?」

は?

 思考に空白が生まれ、一瞬何もかもが吹き飛んだ。何故か聞き覚えがある声が耳元で聞こえたのだ。
そしてそれは、決して現実世界で聞こえる筈がない音。すなわち幻聴でなければならないものなのだが。
「返事くらいしてくれてもいいじゃないか、機嫌が悪いのかい?」
 二度だ。二度聞こえたからにはこれは偶然ではない。私はゆっくりと首を回し、声の主を確かめる。
回転する視界、恐怖感からの涙で明瞭とは言えないそれでも、近距離にある物ははっきりと見える。
そこには、見たことも無い、という
前書き [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ