第四十七話 アメリカ軍人その二
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「そうしたものだ」
「何か候補生に合格した時点で部内幹部って決まってるんですか?」
「ところがそうでもない」
工藤はそれでなるかというとそうでもないと述べる。
「候補生になっても下士官のままでいる者の方が圧倒的に多い」
「偉くなりたくないんですか」
「幹部の仕事は何かとわずらわしい」
工藤は淡々と自衛隊の現状を話す。
「給料も大して換わらず責任は多い」
「管理職だからですか」
「下士官は大目に見てもらえるが幹部は違う」
どの軍でもそうだが自衛隊もまた然りだ。将校、幹部というものはその責任は文官よりも強く要求されるのだ。
「不祥事を犯してもだ」
「本当に一気にですか」
「責任を取られる」
そうなるというのだ。
「後はだ」
「後はですか」
「仕事の量も多い」
それもあった。
「過労、心労で倒れる場合も多い」
「何かきついんですね」
「それでも俺がなったのはだ」
「どうしてなんですか?」
「金モールがよかったしな」
工藤は今もその制服を着ている。黒い制服のその袖に金モール、太いそれが二本巻かれている。そして制帽の顎止めも金色だ。
「それにだ」
「それに?」
「半分以上成り行きだった」
それでなったというのだ。
「部隊で部内幹部受けられる奴は全員試験を受けることになった」
「隊長の都合ですか」
「護衛艦に乗っていたから艦長だな」
艦一隻で一部隊の単位となるのは海上自衛隊独特だ。これは他の自衛隊にはない部隊の単位である。
「艦長がとりあえず受けろと言ってだ」
「それで受けてですか」
「名前を書かない、わざと間違える方法もあった」
「そこまでして皆幹部になりたくないんですね」
「海上自衛隊ではな」
他の自衛隊はどうかわからないが海自はだというのだ。
「そうだ」
「それだけ大変なんですね」
「護衛艦でも下士官は当直以外は四時半で終わりだが」
自衛隊の定刻だ。それで残業の場合以外は終わりだというのだ。
「しかし幹部は違う」
「何時終わるんですか?それじゃあ」
「日没までだ」
「夏なんか滅茶苦茶長いんですけれど」
「そういうことだ。まして艦長が帰らないと帰られない」
上官より帰るとは、となるというのだ。こうした面でも自衛隊という組織は下士官より幹部に遥かに厳しいのだ。
「書類仕事も多いからな」
「それでもですか」
「試験があったら真面目にする主義だ」
工藤はそうした考えの人間なのだ。
「だから受けて答案をしてだ」
「通ってですね」
「今に至る。そういうことだ」
「色々あったんですね」
「君もそうだな」
「工藤さん程じゃないですよ」
高橋は笑ってこう答えた。
「流石に」
「そうなのか」
「まあ。確かに修羅場は結構潜り抜けました
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