第二章
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ただ一緒にはいなかった、紳士は女性の手を持って引いていた。
その紳士を見て僕はすぐにその女性が奥さんと思った、ここでだった。
紳士も気付いて僕に挨拶をしてくれた。
「暫くです」
「はい」
二人で挨拶をした、それからだった。
紳士は僕に対して、その女性を見て話したのだった。
「妻です」
「そうですか」
「毎日一緒に散歩もしています」
「そうなんですね」
「ええ、それでなのですが」
紳士は少し暗い感じで僕に言ってきた。
「お気付きでしょうか」
「そういえば」
僕は今紳士とだけ話をしている、三人いるのにだ。
そのことに気付いてそれで奥さんも見た、奥さんは虚ろな感じでそこに立っているだけだ。顔は上げられているが視点もはっきりしない。
それで何か呟いている感じだ。耳を澄ますと。
「蜻蛉・・・・・・」
傍を通った一匹の蜻蛉を見て呟いていた。
「蜻蛉・・・・・・」
「妻は事故に遭いまして」
紳士は僕に話してくれた。
「それで一命は取り止めたのですが」
「それでなのですか」
「心が壊れてしまいました」
交通事故によってだというのだ。
「回復は絶望的だとのことです」
「そうなのですか」
「以前は。私は家を空けることが多く遊んでいました」
酒に女、そういうものだった。
「それで好き勝手していましたが」
「ですが今は」
「家を開けている時にでした。買い物に車で出掛けていた妻は」
言葉は暗くなっていく。晴れた空の下だというのに明るくはなかった。
「対向車、居眠り運転の車と正面衝突をしまして」
「交通事故ですか」
「はい、それで」
今に至るというのだ。
「それからです。妻は心が壊れたのです」
虚ろになったしまったというのだ。
「私がいない間にそうなりました」
「今は」
「はい、妻は家事も出来なくなりました」
どうやらそれまでは奥さんがしていたらしい。
「私が全てをしています」
「貴方がですか」
「そうしています」
紳士は疲れている顔で言う。
「仕事に家事、そして何よりも」
「奥さんのこともですね」
「全てしています。妻は私がいないと何も出来なくなりました」
まさに赤子の様になったというのだ。
「そうなっているのです。ですが」
「ですがとは」
「私を不幸だと思いますか?」
紳士はここで僕に尋ねてきた。
「今の私を」
「貴方をですか」
「はい、そう思われますか?」
僕は紳士の言葉を受けてあらためて彼の顔を見た、その顔は確かに疲れきったものである。
しかし満ち足りた笑顔だ、その笑顔を見てから答えた。
「いえ」
「そうは思われないですね」
「貴方は幸せですね」
「後悔はあります。以前は妻を放っておいて遊び」
それにだ
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