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ラ=トスカ
第三幕その四
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かある度に身の周りを探られそうになるのはもう嫌ですから」
 早口で言う。それに対しスカルピアは妙ににこやかに笑っている。
「それではこの場は我々にお任せ下さい。スキャルオーネ」
 名を呼ばれスキャルオーネが出て来た。
「侯爵を馬車でお送りするように」
 スカルピアの言葉に返礼し侯爵を送り出していった。足音が次第に遠のいてゆく。
 二人と入れ替わりにスポレッタとコロメッティが入って来た。スカルピアの前で敬礼する。
「何か見つかったか?」
 スカルピアはまずそう聞いた。
「いえ、何も」
「家の中にもか」
「はい」
「いないか」
「はい、誰も」
「何も無いか」
「はい、何も」
 それを見ながらカヴァラドゥッシは心の中で会心の笑みを浮かべていた。全ては彼の思惑通りであった。
「そうか」
 スカルピアの眼が光った。
「子爵」
 カヴァラドゥッシの方へ向き直った。顔に何やらドス黒い陰が挿した。
「少しお聞きしたい事があります」
「何です?証拠なら何も無かったではないですか」
「今のところはね。それにしても貴方の服といい靴といいお髭といい実に素晴らしいですな。良く似合ってらっしゃる」
 カヴァラドゥッシのフランス国旗に見立てた服と靴、そして顎鬚を皮肉る。
「それはどうも。服や靴はともかく髭を誉めてくれる方はあまりおりませんので光栄です」
 カヴァラドゥッシは返した。この程度の皮肉は余裕をもって返せる。
「確か今アルプスを越えてマレンゴで死んだ蛙達もそんな格好だった」
「ほお」
「志ある者ならおりますが」
「失礼、言葉が過ぎました。では子爵、改めてお聞きします。今日囚人が一人サン=タンジェロから脱獄したと貴方は幼い頃からのお知り合いでしたな」
「そうでしたっけ。何しろ私の友人は実に多くて誰かまでは。ただ物真似師の友人はおりません。志ある者ならおりますが」
「失礼、言葉が過ぎました。では子爵、改めてお聞きします。今日囚人が一人サン=タンジェロ城から脱獄したのは御存知ですね」
「そうだったんですか?知りませんでした」
「そしてその囚人を貴方が匿った」
「何処に?」
「この別邸に」
「で、家捜しして何も出なかったと」
「巧く隠れていますな」
「男爵、人を疑うのは感心しませんな」
「仕事なので。やっかいな鼠共を捕らえるには何事も注意深くなくては」
 スキャルオーネが帰って来た。スカルピアはそのまま控えさせた。

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