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日本人に生まれた者の全ての仕事を保証する法案についての考察。あるいは追い詰められた人間の選択
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まれたって、殺人なんかできるもんか!」
「いやいや。僕は君に仕事を依頼した訳でも依頼しにきたわけでもない。ただ、忠告をあげようと思ってね。隣、いいかい?」
聞いておきながら、勝手に座ってしまう。安っぽいジーンズに、プリントティーシャツを着た男は、人を不快にさせる笑みを浮かべる。童話に出てくる悪い狼を思い出した。獲物を品定めしながら、言葉巧みに誘い出し、一口に丸呑みしてしまう狼。
「もしもの話だが。君が研いだ包丁が殺人に使われたとしたら、どうなると思う?」
何だと? 理解はおいつかない。しかし、血の気が引くのがわかる。
あの包丁が殺人に使われたらどうなるのだ?
俺はあの包丁を素手で扱った。指紋は当然俺の物が検出されるだろう。
「ば、ばかばかしい。俺は国から正式に依頼されて仕事をしたんだ。それが、俺の無罪を証明してくれるだろう」
俺は端末に実行中の仕事リストを表示させると、男に見せた。確かに、包丁研ぎの仕事が表示されている。
「そう怒るなよ。落ち着かないと、取り返しのつかないことになるんだぜ。たとえ話の続きをしよう。包丁研ぎの仕事を依頼したのは国だろう。だが、包丁研ぎは口実で殺人の手伝いをして欲しいという内容だったと考えてみてくれ。その依頼人は、誰だい?」
「だ、誰って。内容が偽物なら、依頼人が誰かなんて、分かるわけないだろう」
「そうかな。簡単に考えてみろよ。この端末に送られてくる仕事の依頼人は元をたどれば一つの組織にしかぶつからないよ。国だ。国が殺人を依頼してきたんだ」
「殺人なんか依頼されていない。俺は包丁を研いだだけだ。誰も殺していない!」
「もし、本当に国が殺人を依頼してきているとすれば、君に有利なことなんか一つもないぞ。犯行は被害者を包丁で一突き。包丁からは君の指紋が検出される。話を聞くと、確かに包丁を研いだのは君で、その時間アリバイはない。そして、君のいま見せている端末からは、包丁研ぎの仕事依頼は消えていることだろう。なにせ、管理は国が行っているのだから。造作もない」
頭が真っ白になる。俺が、殺人!
信じられない。殺したい、と思った事がないわけじゃない。でも、実際に殺人を犯すことはなかったし、これからもないだろう。その、俺が。殺人?
「う、嘘だ。ばかな。そんなはずはない。俺に、殺人なんか、できるわけないだろう!」
いや。殺人は行われているのだ。間違いない。そう確信できた。
すでにバカな事をしたものだと後悔の念が生まれ始めていた。
きっと、俺が間抜けにも凶器を届けた直後に殺人は行われたのだ。
もう遅い。俺に冤罪を負わせる段取りは済んでいるのだ。今にも警察が俺の元にくるにちがいない。
吐き気がした。生きている気がしない。
「に、逃げなくちゃ! 何もしてないのに、どうして!」
「へいへ
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