第三章
[8]前話
「確かにな。しかしじゃ」
「私が斎藤道三の娘であることが」
「人は己を認めた者を大事に思う」
ひいてはその娘をだというのだ。
「そういうことじゃ」
「ですか」
「それにじゃ」
まだあった、信長は帰蝶にこのことも言った。
「どうもわしはな」
「殿はといいますと」
「御主でなければ駄目じゃ」
その白い顔を赤くさせての言葉だった。
「それでじゃ」
「あの、それは」
「皆まで言わせるな」
顔は赤いままだった。
「よいな」
「そういうことですか」
「うむ、ではな」
信長は照れ隠しかこうも言った。
「帰れば茶を飲もうぞ」
「茶をですね」
「それでまた話をしようぞ」
信長は夫の顔で帰蝶に話す。
「これからもな」
「それでは」
帰蝶も微笑んで返す、そうして道三の墓前を後にして。
そのうえで二人で城まで帰り城の中で茶を飲む。二人はそれからも夫婦だった、信長と帰蝶を知る者はその仲睦まじさに妬ける程だったという。
このことをある日誰かが言った。
「いや、信長様と帰蝶様の仲のよいこと」
「そうだったのですか」
「信長様が帰蝶様を」
「あれで信長様は意外と思いやりがあってじゃ」
このことも伝わっていたのだ。
「常に帰蝶様のことを気にかけておられたわ
「あの信長様が
「そうだったのですか」
「そうじゃ、また大層な」
このことは今には殆ど残っていないが当時では話題になっていたという。織田信長が実は己の女房を大事にしていたことは。
この話はたまたま尾張の古い文に残っていた為に作者の耳にも入った、面白い話であると思ったのでここに書き残しておくことにした。織田信長が愛妻家だったとは意外であるがそれもまた彼らしいと思えるのが不思議である。
帰蝶 完
2013・2・24
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