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鞄の中
第五章

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「最初はどうなるかって思ったけれど」
「鞄の中を調べられたしな」
「それで終わどころかさらに話題になってな」
「謎のマジシャン」
 こうも言われてきていた。
「何か違うな」
「これまでとな」
「この状況どう思われます?」
 スタッフ達は当人、ホンダにこの状況を問うた。丁度事務所の中にいたのだ、勿論今もタキシードを着ている。
「噂は消えてないですけれど」
「手品か魔術かって」
「どっちかってことに」
「随分と」
「いいことですね」
 ホンダは今もにこやかに笑っていてこう言ったのだった。
「これは」
「いいんですか?これで」
「今の状況で」
「マジシャンですから」
 だからいいというのだ、それ故に。
「ですから」
「魔術じゃないかって言われることも」
「それもですか」
「最高の褒め言葉です」
 そこまで至っているというのだ。
「本当に」
「あっ、マジックはタネも仕掛けもない」
「だからですね」
「そうです、だからです」
 ここでも笑顔で言うホンダだった。
「マジシャンとして魔術ではないかとまで言われるなんてこれ程名誉なことはないですよ」
「だからファンの人達に鞄を見せたんですか」
「そうされたんですね」
「タネも仕掛けもないですから」
 まさにそれでだった。
「そういうことですよ」
「ううん、そうですか」
「考えてみればそうですね」
「タネも仕掛けもないからこそ言われる」
「それなら」
 スタッフ達もホンダの話を聞いて納得した、そしてホンダは今も持っているその鞄を手に持って出して来た。
 そしてそこを開くと。
 中から兎達が出て来た、何匹も何匹もだった。
 どう見ても鞄に入りきれるだけの数ではない、スタッフ達もそれを見て言う。
「どう見ても鞄に入らないですけれど」
「一体どうなってるんですか?」
「本当に魔術じゃないですよね」
「違いますよね」
「さて、どうでしょうか」
 ホンダはスタッフ達にも笑って言うだけだった。
「タネも仕掛けもないですから」 
 その鞄は極めて謎だった、彼をよく知るスタッフ達が見ても。
 彼のマジックが何なのかはずっと言われてきた、そしてその状況を楽しみながら彼は己のマジックを見せていった、最高の名誉を感じながら。


鞄の中   完


                      2013・2・25
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