第三章
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「トイレがないのだ、この宮殿には」
「あの、確かに外観や内装は素晴らしいです」
「庭もです」
「それはいいのですが」
「ですがそれでは」
「何の意味もないのではないか」
コルベールは自分の口から言った。
「これでは」
「またどういうことでしょうか」
側近の一人も首を捻る。
「トイレのことを忘れていたのは」
「そうだな、用足しは絶対にある」
それこそ誰にもだ、人間ならば。
「それを忘れたのはな」
「不思議ですね」
「不思議だ、しかしこの宮殿にはトイレはない」
このことは今更どうにも出来なかった、ないものはどうしようもない。
それでだ、コルベールは庭も見て言った。その庭もだった。
「庭までだ」
「ですね、ここもです」
「宮殿の中と同じく」
汚物に溢れている、無論非常に臭い。
そのむせ返る臭気の中を歩きつつだ、コルベールは側近達に漏らした。
「後世人々はこの宮殿をどう言うか」
「そのことですか」
「それがどうなるかですね」
「確かに外観と内装は見事だ」
そして庭園もである。
「これだけ素晴らしい宮殿は他にない」
「そうした意味で歴史に残りますか」
「そうなりますか」
「このことは確かだ。しかしだ」
「それでもですか」
「その素晴らしさと共に」
「まず莫大な予算がかかった」
財務大臣だけあって最初はこう言ったのだった。
「想像を絶するまでにな」
「ですね、それは」
「相当なものですね」
「しかもそれは過去のことではない」
コルベールはこうも言い加えた。
「今もだ」
「何時それが終わるか」
「それがわからないまでにですね」
「おそらく我々が生きているまでには終わらない」
宮殿の建築はだというのだ。
「百年以上かかるだろう」
「ううむ、そこまで完成に時間がかかるということもですね」
「そのこともまた」
「歴史に残るだろう」
コルベールはこのことも言ったのである。
「巨大な浪費と共にな」
「ベルサイユに水を運ぶだけでも大変ですし」
「しかも犠牲者も多かったです」
「当然そのことも歴史に残る」
犠牲者の多さもだというのだ。
「それもな。そして何よりだ」
「トイレのことですか」
「それですか」
「歴史に残らない筈がない」
そのあちこちに転がっている汚物達を見ての言葉だ。
「今ですらどうかと思える位だからな」
「後世に残りですか」
「色々言われますか」
「若しかしてこの宮殿はそれで名前が残るのかもな」
コルベールは顔を顰めさせて首を捻った。
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