第二章
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「決してな」
「フランス王ならばですね」
「欧州の盟主ならば」
「ハプスブルク家だけではない、イングランドもな」
フランスのもう一つの宿敵だ、フランスの敵は昔から多い。
「あの国にも負ける訳にはいかない」
「近頃あの国も調子に乗っていますが」
「あの国にもですね」
「そうだ、ウィーンにもロンドンにもない」
これだけの宮殿はというのだ。
「フランス王はこの宮殿に住むのだ」
「そしてこの宮殿から政も為されますね」
「この中で」
「フランスの政を行う」
彼が君臨するその偉大な国のだというのだ。
「そうするぞ」
「ではこれからもですね」
「造営を進められていきますね」
「無論だ、金に糸目はつけない」
王は言い切った、予算なぞどうでもいいとだ。
「築いていくぞ」
「はい、それでは」
「その様に」
「宮殿だけではない」
王はそれだけを見てはいなかった、少なくとも視野は広かった。
「料理もよいものを用意する」
「ワインもですね」
「それもですね」
「無論だ、庭もだ」
それもだった。
「見事なものにするぞ」
「はい、では庭師も揃え」
「そのうえで」
宮廷の庭園も揃えられた、しかも。
コルベールは王の考えを聞いて唖然としてまたしても腹心の部下達に言った。
「オレンジだと」
「はい、王はオレンジの木を庭に植えろと仰っています」
「その様に」
「あれは南欧の果物だぞ」
イタリアやスペインのだ。ベルサイユはそういった国々より遥かに北にある。
冬には雪が降り川さえ凍る、これではとてもだった。
「オレンジなぞ凍ってしまう」
「木は育ちませんね」
「とてもですね」
「そうだ、無理だ」
「ですが王はそう仰っています」
「オレンジを何本でもだと」
王の命だ、それならだった。
やはりどうにもならなかった、それでだった。
オレンジの木達が植えられた、だがコルベールの予想通りそのオレンジ達は寒さの前に枯れてしまった。だが王は諦めない。
オレンジをさらに植えさせる、冬に枯れそれの繰り返しだった。その他にも庭にも莫大な予算がかけられた。
宮殿の予算は途方もないものだった、コルベールはやり繰りに四苦八苦していた、しかもそれだけの予算を使いながら。
コルベールは実際に宮殿の中にいていつも顔を曇らせてこう言った。
カーテンの裏側や部屋や廊下の隅、全てだった。
「汚いな」
「はい、汚物ばかりですね」
「とんでもないですね」
「トイレがないのだ、ここは」
彼が言うのはこのことだった。
「誰も最初に気付かなかった」
「それで造営がはじまっていますから」
「だからですね」
「そうだ、途方もない予算を使ってもだ」
それでもだったのだ。
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