第五話〜調練〜
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はいつまでたっても雪蓮が来ないことに動揺している新兵約150人の姿があった。
「はぁ…」
ため息で落胆の意を示す江。簡単に言えば、この状況は彼の思惑が悪い方向にハマった形だった。
そもそも、雪蓮がこの仕事をサボることは朝には知れていたことである。
何せ江宛てに書き置きがあったのだから。
それでもなお、江は遅れて顔を出した。
理由は簡単、集団をまとめる者が出現するかどうかを見極めるためであった。
現在の呉には戦略的に足りないものがある。
確かに布陣としては完璧で微塵の隙もない。
中軍に桃蓮、冥琳、夕の本隊。左には焔、右には祭の弓兵部隊。そして後曲に蓮華、穏、前曲に雪蓮と江。
どこを見ても豪華であり贅沢な布陣だ。
そんな布陣において足りないもの。
それは遊撃隊だった。膠着状態に陥った戦況において、何よりもモノを言うのが戦場を縦横無尽に駆け抜ける遊撃隊である。
今までは江が前曲と掛け持ちという形でこなしてきたが、相手はあくまでも賊などの烏合の衆。
はたしてこれから訪れると予想される戦国乱世ではそれが通用するとは思えない。
遊撃隊に大人数を率いるような統率力は必要ない。ただ100人を完璧に統率できたのならば、たとえ相手が1万の大軍であったとしても容易に混乱させることが出来るだろう。
そう言った意味ではこの場は格好の試験の場となり得た。
「………ん?」
ふと視界の端にひょこひょこと動き回る小さな影を捉える。
目を向けてみれば、肩甲骨まで伸ばした長い黒髪を揺らしながら懸命に片刃の得物を振るう少女の姿があった。
その姿は懸命というよりも何かに駆られ、焦っているといった方が適切かもしれない。
江はそれなりに離れた間合いを無音で一瞬のうちに詰め寄り、彼女の得物を指でつかみ留める。
「えっ!?」
突然現れた文官姿の少年に、少女だけではなく周りにいた新兵達も驚きの声を上げる。
江はその体勢のままで新兵達に顔を向けた。
「孫伯符様の代わりに此度の調練を担当させていただくことになった一文官です。どうぞよろしく」
『文官』
この言葉に周囲の者は皆愕然とした。それはそうだろう。
何せ、その『文官』が突然、自分たちの誰一人にも気配を察知させることなく眼と鼻の先の距離まで詰め寄っていたのだから。
「さて、自己紹介はこの程度にしておいて…今日の調練の内容をお話ししておきましょうか」
その瞬間新兵達の表情が強張るのを見て取ることができた。一同、固唾を呑んで、目の前の自称文官の言葉を待つ。
「そうですね…ふむ、ここは皆の親睦を深めるために『鬼ごと』にしましょうか」
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