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ラ=トスカ
第二幕その七
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第二幕その七

「貴女のそのブレスレットはルビーとダイアモンドとサファイアで飾られている。まるでフランスの国旗だ。その件で手錠をお架けしてもよろしいのですよ」
「?」
 トスカは彼が何を言っているのか解からなかった。悪ふざけかと思った。それに構わずスカルピアは続ける。
「それよりも貴女を異端者としてサン=タンジェロ城へ送ろうか」
「私を、ですか!?」
 この言葉にトスカは驚いた。自分の信仰の篤さと王妃への忠誠は誰もが知っていると確信していたからだ。
 「はい。貴女は教会でジャコバン派の者とお会いしていたので」
 トスカはその言葉を聞きその事か、とホッとした。だが彼女は気付いてはいなかった。スカルピアの罠に落ちた事を。そしてスカルピアの親しげな仮面の下の邪悪な笑顔を。
「あの方は私に見も心も捧げてくれています。御心配無く」
「そうですか」
 スカルピアはあえてにこりと笑った。そして懐からあれを取り出した。
「それでは安心してこれを返す事が出来ます」
 扇をトスカに手渡した。
「これは・・・・・・・・・!?」
 トスカは扇を手にして呆気に取られた。
「夕刻サン=タンドレア=ヴァッレ教会で拾ったものですが。貴女の物でしょう?」
 その時扇の紋章が目に入った。トスカの顔が割れた。否、割れたかと思える程の驚愕だった。
「これは私の物ではありません!」
「えっ、それでは何方の物です?」
 スカルピアはここでも演技をした。驚いてみせる。
「扇にあるこの紋章はアッタヴァンティ家のもの、これはあの夫人・・・・・・」
「ああ、そういえば教会のあの絵はアッタヴァンティ侯爵夫人によく似ていますな」
 スカルピアの言葉にトスカは火が点いた。事を完全に理解した、と思った。そう、思ったのである。
「やっぱりあの教会で会っていたのね、私の目を盗んで」
 一人酒を飲んでいるアッタヴァンティ侯爵の所へ行く。怖ろしい剣幕で詰め寄り問い質すトスカに何も知らない侯爵はタジタジとなる。しかも多少ぼんやりしたところのあるこの侯爵は当の扇が誰の物なのか解からない。仕方無く妻の情友であるトリヴェルディ子爵を呼んだ。
 情友とは妻や夫以外の恋人の事である。今で言うと愛人となるだろうか。ただし今の愛人とは違い当時のイタリアではこの情友と愛人は似て非なるものであった。愛人とは一目を盗んで相手の下へ入り込み誘惑し、相手の妻や夫の名誉や面目を損なわせる恥知らずな輩達のことであり、日本でよく泥棒猫だの女狐だの間男だのと呼ばれる連中と言えば解り易いか。これに対し情友とは相手の妻や夫公認の第二第三或いはそれ以上の立場の恋人である。情友とは天からも認められた堂々たる恋愛崇拝者であり、相手の妻や夫の許しの下節度と慎みをもって相手に近寄り機嫌を取るのだ。開けっ広げな恋愛観
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