第四章
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モリはそこにいる農民の一人、初老の黒人の彼にこう尋ねた。
「あの、いいですか?」
「はい、何でしょうか」
「ゲバラ同志は何処に」
「ああ、チェさんだね」
「チェさん?」
「わし等こう呼んでるんだよあの人のことをね」
「そうなんですか」
「いつも最初にチェっていうからね」
だからだというのだ。
「そう呼んでるんだ」
「エルネスト同志とは」
「ああ、そういえばそういった名前だね」
「その名前では呼ばないんですね」
「呼ばないねえ」
彼はモリに笑って言う。
「別にね」
「そうですか」
「それでチェの旦那がどうしたんだい?」
「本当にここにおられるんですか?」
モリは一行を代表して彼に尋ねた。
「このサトウキビ畑に」
「いるよ」
男はモリに笑顔で答えた。
「今ここにね」
「このサトウキビ畑に」
「そうだよ、いるよ」
まさにここにだというのだ。
「いるよ」
「それは本当ですか?」
「嘘を言って何かなるかい?俺にとって」
男はモリが驚いた顔になるのを見つつ笑って返した。
「一体」
「それは」
「そうだろ、ならないだろ」
「はい、確かに」
「そうだよ、じゃあな」
「ではゲバラ総裁は何処に」
「総裁?ああ、旦那は銀行の偉いさんだったね」
男はモリに言われてやっと気付いた感じだった、それが顔にも出ている。
「そういえばそうだったよ」
「あの、何か本当に」
「本当に?」
「何でもない感じですけれど」
「旦那が自分でそう言ってるんだよ」
「ゲバラ総裁がですか」
「自分は偉くとも何ともないと」
そう言っているというのだ、ゲバラ自身が。
「そう言ってるからね」
「だからですか」
「ああ、かえって偉い人として扱うと嫌がるんだよ」
「それはまた」
「フィデルもそうだけれどな」
カストロもだという、少なくとも彼は地位や権力で威張る様な輩ではないがそれはゲバラもまたそうだというのだ。
「とにかくチェの旦那を呼ぼうかい?」
「いえ、私達から行きますので」
モリ達は自分達から行くと答えた、そうして。
彼等はゲバラがいるというその場所に向かった、そこはサトウキビ畑の中だ。彼は鎌を使ってそのサトウキビをしゃがんだ姿勢で切っていた。
短いが端正な形の髭を生やした引き締まった顔立ちの男だ、その目の光は強く澄んでいる。髪の毛はやや縮れた黒髪だ、全体的にバスク的なものがある。
今このサトウキビ畑にいる他の面々と同じく農作業をする服を着ている、その彼こそがだった。
「あの、貴方がその」
「よお」
気さくな返事だった、彼は身体を起こして右手を挙げてきた。
「エルネスト=ゲバラだよ、チェ=ゲバラと呼んでくれ」
「わかりました、あの」
「あの?何だい?」
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