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一人の男
第一章
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                  一人の男
 革命が起こって間もない国だった。
 キューバは活気に満ちていた、ブルガリアから来た外交官ソレモ=モリはそのキューバを見てまず周りにこう言った。
「格段にいい国になったね」
「そうだね、本当にね」
「何もかもが変わったね」
「共産主義になるだけじゃないよ」 
 当時のブルガリアは共産圏にあった、だからこのことはまず喜ぶべきことだった、その盟主ソ連への感情はともかくとして。
「前政権は酷かったからね」
「バチスタ政権だね」
「あれはね」
「アメリカもよくあんな連中を助けていたものだよ」
 所謂傀儡政権だったがアメリカはその政権の腐敗についてあれこれ言うようなことはしなかったのだ、その結果バチスタ政権は腐敗を極めていた。
 それが国民の反発を呼び革命を引き起こしたのだ、モリはキューバの輝かしい日差しを目の前にしてこうも言う。
「愚かな話だよ」
「全くだよ、けれどお陰でね」
「この国が我々の味方になる」
「アメリカの喉元に刃を突きつけられるな」
「カストロ議長はかなりの人だしね」
 僅かな同志達と共にキューバに戻りゲリラ戦からはじめて遂には革命を果たした、それだけを見てもわかることだ。
「我々は心強い同志を得た」
「そういうべきだね」
「さて、これからこの国がどうなるか」
「それも見るか」
 こう話す彼等だった、そして。
 キューバの街や海を見るとこれがだった。
 ブルガリアにはない暑く眩しい日差しに明るい街並、そしてサファイアを溶かした様な海と空。まさに楽園だった。
 モリは同僚達とビーチでキューバの美女達も弾けんばかりの水着姿と笑顔を見つつ青く様々なフルーツが入れられたトロピカルドリンクを飲みつつこうも言った。
「ソ連はこの国を随分と気に入っているけれど」
「それも当然だね」
「よくわかるよ」
 周囲も言う、そのドリンクやバナナを口にしながら。
「ここまで綺麗だとね」
「暑いし甘いものも一杯ある」
「ソ連にないものが全部あるよ」
「砂糖だってね」
 これもだった。
「凄いサトウキビ畑があるから」
「甘いものをふんだんに口に出来る」
「この綺麗で暑い国にいつもいられてね」
「ここはまさに楽園だね」
「ここが楽園じゃなければこの世の何処にも楽園がないよ」
 こうまで話す彼等だった、ブルガリア人から見てもキューバは最高だった。
 そしてその指導者達もだ、ゲリラの頃から変わらない軍服姿で熱い演説をする髭の男を見て感激するのだった。
「いや、あれがカストロか」
「髭のカストロか」
「噂には聞いていたけれどいい演説だね」
「長いけれどね」
 確かに長い演説だ、しかしである。
「いや、いい演説だよ」
「しかも政治もいいしな」
 
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