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ラ=トスカ
第二幕その六
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字架であった。
「十字架、ですか」
「はい。貴女にはよく似合うと思いまして。きっと貴女を御護り下さる筈です」
「よろしいのですか?私なぞに」
「貴女だけではありません。貴女の愛しい人も御護り下さいます」
「そうでしょうか。あの人はあまりこういった事は・・・・・・」
 少し苦笑した。だが男は自信を湛えた満面の笑みで答えた。
「そんな事はありませんよ。この十字架に貴女と彼はきっと感謝する筈です」
「そうでしょうか。でしたらあの人が私にだけ振り向いてくれますように」
 そう言って十字架を受け取り十字架に対して祈った。そして男に対し礼を言った。男はそれに返礼をすると人ごみの中へ入っていった。
 スカルピアは広間の端の方で思案に耽っていた。今自分の置かれている状況とそれに対する対策である。
(アンジェロッティに逃げられた事は痛いな。オルロニア公爵夫人はここぞとばかりに陛下に讒言してくる。今この場でも)
 オルロニア公爵夫人の方を見る。こちらをチラリ、チラリと見ながら王妃に何やら囁いている。
(公爵夫人だけではない。この広間にいる奴等も下の広場にいる連中も皆このわしを地獄に叩き落そうとしている。糞っ、あのイギリス女が妙な事を言わなければこの様な事にはならなかったというのに)
 忌々しげに飲みかけの杯を置く。長く溜息を吐いた。高ぶりだしていた気が落ち着いてきた。
(落ち着け。だとすれば逃げた男を捕まえれば良い。おそらくマリオ=カヴァラドゥッシが匿っている筈だ。あの男を探し出せばそこにアンジェロッティもいる。だが用心深い奴の事だ。姿を現わす頃にはアンジェロッティは高飛びしている。奴は無理にしても奴の妹ならこの扇を証拠にして捕まえられる)
 懐から扇を取り出し手に取る。
(とにかくカヴァラドゥッシの居場所を突き止めなければならない。知っているとすれば・・・・・・・・・。使用人共は誰も知らん。おそらく秘密の隠れ場所にいるな。だとすれば兄のアルトゥーロ=カヴァラドゥッシ伯爵、は無理だな。もうマレンゴへ向かった。それに伯爵に感づかれてはまずい)
 もう一つ厄介な事に気付いた。カヴァラドゥッシの兄に気付かれては全てが終わるのだ。
(オーストリア軍きっての将だ。こちらからは手出しが出来ぬ。唯でさえわしが弟をマークしている事に不快を示しているというのに。アンジェロッティに逃げられぬうちに伯爵に気付かれぬ様に。わしの首が飛ぶより速く、か。さてどうしたものか)
 扇から目を離し考え込んだ。ふとトスカが目に入った。何やら多くの淑女達と話し込んでいる。
(トスカはあの男の恋人だ。だとすれば奴の隠れ家も知っているやも知れぬ。だがどうすれば)
 その時ある考えが脳裏に閃いた。
(そうだ、トスカは情熱的で直情的な女だ。奴が女にもてるのみいつも焼き餅を焼いて
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