第一幕その七
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のです。たとえ貴族でも庶民でも」
「そんな筈は・・・・・・」
ここにいる者達は皆貴族である。青い血が流れる者達である。その彼等が自分達を庶民と同じと言われて気分がいい筈がなかった。
「それはいづれわかることです。必ず」
「・・・・・・・・・」
皆その言葉に沈黙した。そして先程の修道院長の言葉を思い出した。
「怖れることはありませんよ。真実というものは必ず明らかになるものなのです」
彼はそう断ったうえで話を続けた。
「私は神を信じます。ですが」
その言葉はまるでそこにいる者達の心に対して語りかけているようであった。
「その神は束縛を好まれません。愛と自由を好まれるのです」
「愛と・・・・・・」
「自由を」
皆その言葉を繰り返した。マッダレーナもである。
「はい、それこそが神の教えです」
シェニエはそう言って微笑んだ。
「その神は時として私に授けて下さるものがあります」
「それは?」
「それはミューズを通して授けられます。それこそが詩情なのです」
「そうなのですか」
「はい、そして今それが授けられました」
シェニエは穏やかな声で言った。
「それを今から皆さんにお伝えしましょう。神の授けて下さったものを」
そう言うとゆっくりと構えた。左手の拳を胸に持って来たのだ。
「ある日私は青い空に見惚れていました」
彼は詩を口にしだした。
「スミレの花が咲き誇り太陽の黄金色の雨が降り注ぐ中見ていました」
詩を続ける。
「大地はその恵みを受けた巨大な宝であり空はそれを包んでいます。それについて考えていた時大地が私にあるものを授けてくれました」
「それ何でしょうか?」
人々は問うた。
「それこそが愛でした。そして大地は私に教えてくれたのです。私が愛し、愛するものはこの美しい祖国であると」
「祖国・・・・・・」
「はい。私はコンスタンチノープルで生まれました。しかし心はフランスに常にありました」
彼は言った。確かに母はフランス人ではない。だが彼の心はフランスのものであったのだ。
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