第一幕その五
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低かった。
こういった話がある。鉄仮面という男が牢獄に捕われていた。
彼の正体についてはいまだに色々と議論されている。ルイ十四世の縁者ではないかという噂があるが定かではない。デュマは小説にもしている。だがこれはという確かなものはない。
その鉄仮面が牢獄から一通の手紙を落とした。誰かに自らの身の上を知ってもらい助けてもらう為だ。その手紙を一人の漁師が拾った。
すぐにその漁師のところに人が来た。何と鉄仮面が捕われている牢獄の監獄長自らやって来たのだ。
「御前は手紙の中身を見たか?」
彼は怖い顔をしてその漁師を問い詰めた。
左右には兵士達が控えている。剣呑な気配だ。
「いえ」
漁師は答えた。
「読むも何も私は字が読めないものでして」
それを聞いた監獄長はこう言って微笑んだ。
「御前は運がいい奴だ」
彼がもし字が読めていたら確実に殺されていただろう。この漁師は思わぬところで命拾いをしたのだ。
「彼等は大変なことをしています」
「何をしているのですか?」
皆院長の言葉から耳を離せない。
「あれは非常に怖ろしいことでした」
彼はそれを話すのを躊躇していた。だが話さないわけにはいかなかった。
「何ですか、教えて下さい!」
皆がそれを許さないのである。彼は止むを得ず話しはじめた。
「アンリ四世陛下の像が汚されました」
「何と怖ろしいことを・・・・・・」
アンリ四世とはこのブルボン朝の創始者である。ヴァロワ家が断絶したのでその縁者である彼があとを継いだのである。この時代彼は神にも等しい存在であった。
「彼等は神をも怖れぬのでしょうか」
「はい、彼等の中には神を否定している者もおります」
「信じられない・・・・・・」
この時代から無神論者もそれを主張するようになった。フリードリヒ大王もそうであったが特にこの時にフランスの啓蒙思想家には多かった。
「では彼等は何を信じているのでしょう」
「理性だと彼等は言います」
「そんなものが何の役に立つと・・・・・・」
それを聞いたシェニエは少し目を向けた。何か言いたげであったが誰も気付かなかったしシェニエ自身も人にまで聞かせるつもりはなかった。
「まあ深刻な話はそれまでにしましょう。折角の宴なのですし」
院長はそこで話を強引に打ち切ってしまった。
「フレヴィルさん、貴方もそう思うでしょう?」
そしてそうした場を盛り上げることに慣れているフレヴィルに話を振った。
「ええ」
彼は微笑んでそれに応えた。そして皆の前に出て来た。
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