第四十九話 決戦(その八)
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いるのか……。
「軍が解体されれば私は無力な一市民でしかありません。頭領が何故私を危険視するのか、良く分かりませんね」
ゆっくりとした口調だ、視線は頭領から外さない。
「私はビュコック司令長官を恐ろしいとは思いません。だが貴方は恐ろしいと思います。例え指揮する兵を持たなくてもです。貴方には何をしでかすか分からない怖さが有る。だから大人しくしてくれと頼んでいます」
頭領も同じようにゆっくりとした口調で答えた。頭領も視線を外そうとしない。
部屋の空気が重い。怒号も罵倒も問い詰める声も無い、だがこの二人は間違いなく戦っている。頭領はヤン・ウェンリーに帝国への恭順を求めヤン・ウェンリーは言質を取らせない。頭領がヤン・ウェンリーに帝国への仕官を勧めたのも反帝国活動を防ぐためだろう。ようやく俺にも分かった。この二人にとって戦争はまだ終わっていないのだ。
頭領がフッと笑った。部屋の空気がジワリと緩む。
「まあ、私が何を言っても最後に決めるのは貴方です。貴方が賢明な判断をする事に期待しましょう。もっとも何が賢明な判断なのかは個人の価値観によって違うのかもしれませんが……」
「……」
ヤン・ウェンリーは表情を見せない、相変わらず無表情のままだ。
「一つ教えて貰えますか、ヤン提督」
「……」
「貴方は人の命以上に大切なものが有ると思いますか、それとも命以上に大切なもの等存在しないと思いますか……。自由惑星同盟は人命より民主共和政の護持と打倒帝国を重んじたようですが、貴方はどうです?」
ヤン・ウェンリーの表情が変わった。強い眼で頭領を睨んでいる。どうやら痛い所を突かれたらしい。頭領は微かに笑みを浮かべている。
「次に戦争が起きれば貴方の養子、ユリアン・ミンツも戦場に出る事になるでしょうね。彼を失った時、貴方はどう思うのかな。已むを得ない犠牲と割り切れるのか……」
「……」
ますますヤン・ウェンリーの表情が硬くなった。僅かだが身体が震えている。そして頭領は更に余裕の笑みを見せた。
「怒る事は無いでしょう、私は未来を予測しただけです。実際にどうなるかはヤン提督、貴方が選択する事だ。ただその時に自分の選択が何をもたらすのか、そこから眼を背けないで欲しいですね。……ビッテンフェルト提督、そろそろ失礼しましょうか」
部屋を出て廊下を歩く、前を歩く頭領に問いかけた。
「頭領、ヤン・ウェンリーは反帝国活動をするとお考えか?」
「民主共和政の存続は許されました。それがどのようなものかを確認してからでしょう。多分受け入れられると思いますが……」
振り向く事無く歩き続ける。
「では、何故あんな事を?」
「念の為の警告、そんなところです。本当はローエングラム公に仕えてくれるのが一番良い。妙な連中に利用される事も無く誰
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