第一幕その三
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る。だがマッダレーナの思いとジェラールの嫌悪は全く異なるものであった。彼女はその世界の中にいて彼はその世界の外にいる。それだけで見るものが違うのだ。感じることも違うのだ。
それはマッダレーナにもジェラールにもわからない。人間というのは別の世界のことはなかなかわからないものなのだ。例え注意していても。
マッダレーナもジェラールもその性質が善であることは事実だ。だがそれが人を正しい方向へ導くかというと決してそうではない。逆に誤った方へ導くこともある。
その逆もある。それは人間にはわからない。わかるとすれば神だけである。だがジェラールは神を否定する。
「こうした虚構を作る神なぞ・・・・・・」
仕事を終えた彼は城を去り何処かへと消えた。その行く先を誰にも告げずに。
やがて伯爵夫人とマッダレーナのところにフレヴィルがやって来た。
黒い髪に黒い瞳を持つ派手に着飾った男である。イタリア出身らしい彫の深い顔立ちに見事な着こなしである。伊達男と評判のあるイタリア男だけはあった。
「奥様、お久し振りでございます」
彼はそう言うと恭しく頭を垂れた。その身のこなしも優雅である。
「こちらこそ」
伯爵夫人やマッダレーナも挨拶を返す。だがその優雅さでは彼に劣っていた。
「私のような軽輩をお招き頂くとは。身に余る光栄です」
「いえ、そんな」
「いえいえ、感激あまり今日は友人と二名連れて来ました」
「お友達を?」
「はい、こちらに」
彼は微笑むと左に控える二人の男を手で指し示した。
「まずはフランド=フィオリネルリ」
フレヴィルに紹介されたのは中年のやや肥え太った男であった。茶色い髪と瞳を持ちあまり背は高くない。どちらかというと美男子というより愛嬌のある外見、顔立ちである。
「はじめまして」
フィオフネルリはマッダレーナ達に笑顔で答礼した。
「イタリアの貴族にして音楽家であります。遂この前スカラ座で上演したオペラが大好評でした」
「まあ、スカラ座で」
オーストリアのマリア=テレジアがミラノに建てさせたスカラ座はこの時から欧州で最も権威のあるオペラハウスであった。そこで成功するということは音楽家としての栄誉であった。
「まあどちらかというと音楽家よりコメディアンの方が似合うかも知れませんが」
ここでフレヴィルは冗談を言った。
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