五十五 図南鵬翼
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何時からいたのか。
彼は誰にも知られず、誰にも気づかれず、その場に立っていた。
全てを見透かすような蒼い双眸。
空気に溶け込むほどの透明感と水際立つ存在感。
矛盾したそれらを併せ持つ彼は、ただ静かに佇んでいた。
一尾と九尾の狭間で。
「その身体はお前のものじゃない。波風ナルのものだ」
穏やかな声音の反面、冷徹な眼差しで言い放つ。
突如現れたうずまきナルトに九尾―『九喇嘛』は思わず寒気を覚えた。
《なぜ貴様が、クシナの鎖を使える…ッ!?》
今一度、問い掛ける。
警戒を露に睨む九喇嘛を、ナルトは無言で眺めた。一瞬、沈痛な面持ちで俯く。ややあって顔を上げた彼は小さく微笑んだ。
「今やるべき事は一つ。そうじゃないか?」
九喇嘛の質疑には応じず、ナルトは空を仰いだ。その視線の先を見遣った九喇嘛が眉を顰める。
そこには九喇嘛同様、鎖に縛られた守鶴の姿があった。
地中から伸びた幾筋もの鎖。それらはまるで蜘蛛の糸のように、ニ体の尾獣の力を抑え込んでいる。
姿形は少女である九喇嘛はともかく、完全体となった守鶴が身動き出来ぬ様は目を疑う光景だった。
「な、なんだァ!?」
驚いた守鶴が力任せに引き千切ろうと試みる。しかし鎖はその馬鹿力を物ともせず、むしろ先ほど以上にピンッと張り詰めていた。
「守鶴の力を制する方法は知っているはずだ」
《…なぜ自分でやらん?》
「ナルが…いや、君達がやらなければ意味がないからだよ」
淡々と話すナルトを、ナルの姿をした九喇嘛が訝しげに睨んだ。剣呑な紅い瞳を細める。
《…わからん。貴様は誰の味方なんだ?誰の為に動いている?》
「俺は何処にも属さない。誰の味方もしない。強いて言うならば、」
九喇嘛との議論を断ち切って、ナルトは瞳を閉じた。口角を皮肉げに吊り上げる。
「自分自身の為だよ」
言い切る。しかしながらその面差しは、確かに愁いを帯びていた。
沈黙が落ちる。【風遁・練空弾】によって円形に窪んだその場では守鶴の怒鳴り声だけが轟いていた。
九喇嘛は暫しナルトを探るように見つめていたが、やがて自らの殺気を抑えた。ナルトを睨みつつも、思案に沈む。
如何に不意を衝かれたとは言え、一尾と九尾――尾獣二体を同時に抑えたのだ。
自らの力を封じるクシナの鎖を操り、その上気配を悟らせずに捕縛する。そのような芸当が出来る相手を前に、迂闊な行動は慎むべきだと九喇嘛は瞬時に判断した。
波風ナルを完全に乗っ取り、本来の力を出したとしても、目の前の少年には通用するか定かではない。なぜならば彼の力は未知数で、加えてその行動理由も目的も心意でさえも全く読み取れないからだ。一尾と九尾を目前にして聊かも物怖じしないその態度も気に掛かる。
更にはとても信じられな
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