油断
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ている。 彼らは今まで彼女とアオアシラの決着がつくのを影で観察していたのだ。 決着がついた後ならば、残った方も疲弊し、危険が少なく狩れると思っていたのだろう。
そしてその予想は見事に的中していた。
アオアシラと戦って勝利したとはいえ、少女もまた満身創痍。 体を支える足腰はスタミナ不足で仔ケルビのように震え、太刀を握る両手は違う意味で意思とは関係なく小刻みに震えている。
アウッ。 と一鳴き。 ジャギィのそれと比べると低く、ずっしりとした鳴き声は群れ全体の耳に届き、その声の意味を理解した彼らは少女に向かって駆け出した。
一匹は体勢を崩すために体当たりを、 一匹は爪で脚を引き裂き、狩りの成功をより確かにするために、一匹は鋭い歯が並んだ口を開き、喉笛を噛み千切らんと肉薄する。
恐怖によって反応が大きく遅れてしまった。 少女は現状を何とかしようと太刀を振るうが、アオアシラを斬り裂いた太刀筋は何処へやら。 不完全な体勢で振るった太刀はジャギィの歯によって止められ、横から体当たりによって吹き飛ばされる。 幸運は吹き飛ばされたことによって爪が当たらなかったことぐらい。 だが所詮一瞬の出来事。 目を向けてみれば今度こそと口を開き、喉に噛みつこうとしているジャギィがいた。
―――あ〜あ、ここで終わりか〜。 そう言えば師匠。 どこ行っちゃったんだろ? 私が死んだらあの人、悲しんだりしてくれるかな?―――
非常に時間がゆっくりと流れている気がする。 喉元にゆっくりと牙が迫る。 まるで時がゆっくりになり、自分の思考だけがいつもの速度で活動出来ているみたいだ。 本当は思考が高速回転しているのかもしれないが、そんなことはどうでも良い。
もうちょっと世界を知ってみたかった。 番台さんが温泉が新しくなったと言っていた。 ドリンク屋さんはもうすぐ新作が出来るから味見をと言っていた。 村長にどうやったらあんなサラサラな髪になるのか聞いとけばよかった。 そう言えばまだお昼ご飯食べてない。
いろんな思考が浮かんでは消え、また浮かび上がる。 ああ、死ぬ間際ってこうなるんだ。 と少女が理解しかけたその時。
至近距離から肉の潰れるような、引き千切れるような、そんな普通なら耳を塞ぎたくなる音が聞こえた気がした。
思考をやめて、目の前に意識を向けてみると、下顎の吹き飛んだジャギィが倒れて行くのが見えた。 突拍子もない事を見たせいで混乱したが、さらに立て続けに似たような音が響き、周囲のジャギィが倒れて行く。
視線を横に向ける。 ジャギィの囲みの外側に、あの人がいた。 煙草を吸いながら重弩を構え、いつもと変わらない顔で、師匠が居た。 ……来てくれた。
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