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老人の一時
油断
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。 噴き出した血で地面を濡らし、その上に力の抜けた身体が横たわる。
 生きるためにと奮闘していた一つの命が、今消えた。

「勝った。 ……勝ったァァァァァァ!!」

 刃を振り抜き、アオアシラが倒れた後もしばらく構えていた少女だったが、動かないと確認すると喉よ枯れろと言わんばかりに絶叫した。
 太刀を手から投げ出し、身体を大の字にして寝転がる。 肉体は限界値を突破し、もはや歩くことも億劫になっているが、心は満たされていた。 勿論、精神的な疲労も感じたことが無いほど尋常では無いものだが、心地よい疲労感とでも言うべきか、納得できる結果に大きく満足し、喜びを全身で表現していた。

 だが、一つ忘れてはならないことがある。 ここは弱肉強食の世界。 己が身で自然を生き抜いてきたモンスター達が闊歩する危険地帯なのである。
 狩り場に指定されている土地で、武器を手放し、横になって今にも疲労感に任せて睡魔に身を委ねようとしている少女。
 そんな絶好の獲物を……、彼らが見逃すはずは勿論無い。

「ギャア!」
「へっ?」
 
 突如聞こえてきた生物の鳴き声に対して間抜けな声が口から洩れる。 瞬間、太陽の眩しさに目を細めていたのに、急に影が差して少し眩暈がする。 その眩暈の中かろうじて見えるのは……ジャギィが大きく顎を開いて噛みつこうとしている、死ぬ一瞬前。

「キャアァァ!?」

 瞬時に転がってその場を離脱する。 顎が閉じられ、首を噛み裂かれそうだったのをギリギリで回避した。 耳が掠っただけで済んだのはほとんど偶然に近い。 慌てて太刀を引っ掴み目の前の相手と対峙する。
 鳥竜種、ジャギィ。
ここ渓流で頻繁に見られる種で、大きな群れさえ作らなければさして脅威にはならないモンスターである。 そう、群れでさえ無ければ……。

「ウ〜〜。 アウッ。 アウッ」
 
 間延びした遠吠えを数度繰り返すと、周囲から何処に居たんだと叫びたくなるような数のジャギィが出現した。 奥の道から、背後の山道から、崖下から、端の洞穴の中から。
 そうしてその奥から一際大きな個体がその姿を見せた。 小さく華奢な姿をしたジャギィとは似ても似つかず、遙かにがっしりとした力強い姿をさらして堂々と群れを率いている群れのリーダー。
 狗竜、ドスジャギィ。 同族の中のリーダー争いに勝ち抜き、純粋な実力のみで群れのリーダーにのし上がった群れの最強の個体。

「あ、ハハ……。 さすがに……まずいよね?」

 確認するように呟くが、この場に言葉によって肯定してくれる存在はいない。 居るのは行動によってそれを実感させてくれようと今か今かとリーダーの指示を待っている鳥竜のみ。
 彼らのように群れを作って日々を生き抜いている鳥竜種は総じて狡猾であるというのが良く知られ
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