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老人の一時
油断
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色く輝いていた刃は噴出した血が溶け込んで赤い、紅い気で覆われ、今までの比にならない程の気を纏い込んだ。 戦い続けて気が研ぎ澄まされ、それによって武器にまで影響を及ぼした状態。 太刀の切れ味が大きく跳ね上がる。 まさしく、死神の持つ相手の命を刈り取る刃。

「ハッ! ハァ。 よし。 よし! もうすぐ、もうすぐで……ハァ、勝てる……!」

 息は荒く、紅い気を宿した太刀を構える両手は震え、少女の体力の限界を示していた。 いくら師の訓練志向によってスタミナが鍛えられていても、所詮それは新人(ルーキー)の範疇内での話。 初のソロ狩猟。 経験の無い狩りは、本人が想像しているよりも遙かに重い精神的負担となり、それが肉体にも表れている。
 だが、相手のアオアシラはもっとひどい。 今の今まで戦い、身体中至る所は切り裂かれ、出血している。 そこにダメ押しとばかりに叩き込んだ気刃斬り。 アオアシラの命はまさしく風前の灯だった。

「グオオオオォォォォォォ!!」

 それでも、負けられないと咆哮し傷ついた体を奮起させて走りだすアオアシラ。 力強く地を蹴り、剛腕を振るって彼女の華奢な身体を叩き潰さんと振り上げる。
 少女もまた、そんなアオアシラを正面から迎え討とうと、膝を曲げて腰を落とし、太刀は腰溜めに構える。 身体の力は弛緩させ、あくまでゆったりと構えて相手を見据え、待ち受ける。
 迫り来る『死』。 使い手が振り上げた『死』は世界の重力に更に腕力が加味され、より濃厚となって迫り来る。 まだ早い。 まだ早い。 まだマダまだマダ。 心の中で自分自信に言い聞かせ続ける。 フッと、頭に浮かぶのは一秒後のビジョン。 脳天から叩き潰され、陥没し、頭部分は見るも無残になるイメージがありありと浮かぶ。 剛腕が迫る。 位置は? 太刀の間合い。

 抜刀。

 弛緩させていた体中の筋肉を一気にフル稼働。 脱力状態から一瞬で身体に力を込め、バネの様な瞬発力を持って太刀を振り上げる。 
 脚の踏み込み、太ももの筋肉を経由して腰の回転を上乗せ、腹筋を経由させて肩、腕、手首の動きを全て最適な状態で太刀に込め、今までの比にならない圧倒的な斬撃を叩き出す。 
 踏み込み、腰の回転、腕の振り、全てを完璧のタイミングで組み合わせ、最短距離で最速の斬撃を打ち込む抜刀術。 本来は対人戦として作成された技らしいのだが、少女は独学でこの技を覚え、そしてモンスター用の武器でモンスターに対抗できる技とまで昇華させていた。 
 振り込まれた一閃はアオアシラの剛腕とぶつかり合い、頑丈な筈の甲殻を易々と切り裂いて更に直進する。 少女を叩き潰さんとした腕は斬り飛び、刃は無慈悲にアオアシラの首を切り裂いた。 
 ギリギリで生命活動を維持していたアオアシラにこれほどの重傷を耐える力などある筈もなかった
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