1章
老人と少女
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小鳥のさえずりが何処からか響いてくる。 温かい日光を浴び、風に運ばれて何処からか飛んできた紅葉の木の葉が最近増えてきた気がする。 残暑も過ぎ、本格的な寒冷期に入る前の短い期間。 山には紅葉が目立ち始め、村全体が素晴らしい朱で覆われていくのが日に日に実感できる。
ここユクモ村は、ロックラックという大都市から遠く離れた山奥に位置しているが、その見事な紅葉と名物の温泉で遠路はるばるやってくる湯冶客が後を絶たない。
「……ここもまた、賑やかになるな」
徐々に色づいている紅葉を見ながら暑くて濃い目の緑茶を啜る。 東方より伝来したと言われている文化は数多いが、とりわけこの村はその東洋文化を色濃く受け継いでいるらしい。 ロックラックからやって来た時、文化の違いに大きく困惑した事は今や懐かしい。 今では完全にユクモ村の文化にも慣れ親しんでいる。 こうして四季折々の景色を眺めながら昼は茶を、そして夜は晩酌を楽しむのはこの村に来てから新たに覚えた趣だ。 景色で目を、香りで鼻を、うまい酒と肴で舌を、同時に楽しめるのはとても素晴らしい。 今振り返ると、これを知らなかった若かりし頃の晩酌が虚しくすら思えて来る。
渋い緑茶独特の香りと苦みを味わっていたが、心地良い時が過ぎ去るのはあっという間。 分かってる。 過ぎ去るというより、壊されると表現した方が適切でも、結局は同じことなのだから……。
「こんにちは師匠ーーー!! 今日はどんなクエスト行くんですか? 狩りですか? 採集ですか? も〜何でもいいから速く行きましょうよ〜!」
そんな物言いと共にズバーンと家の戸が盛大に開かれる。 それと共にズカズカと勝手に入って来たのは、ユクモノシリーズと呼ばれるこの地方独特のハンター用防具に身を包んだ一六、七程度の少女だった。 こちらの事を『師匠』と読んだ通り、弟子として日々研鑽に勤しんでいる毎日の見るからに活発そうな少女だ。
「部屋に入る時は一声かけるのが礼儀だと前にも言っただろう」
「そんなことより! 今日はどんなクエスト行くんですか? ぶっちゃけ採集にも飽きてきた所ですけどバーンと狩猟行ったりしないいんですか!?」
「やかましい。 耳は健康だから大声出さんでも聞こえるよ」
最近は生来の活発さと有り余る元気さを狩りの世界で発散しようとしているのか、こうして何度も何度も催促してくる。 ここで採取と切り出そうものなら、目に見えて悲壮感を漂わせ哀愁さえ誘うほどげんなりした顔をするのだが、いざ外に出ると真面目にクエストに取り組むので根は真面目なのだろう。 何度も催促している割には一回も『無断でクエストに出るな』という師の言い付けを破らず律儀に守っている辺りにもそれが窺える。
「そんなに待ちきれないのなら先に集会浴場に行っておきなさい。
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