第三幕その八
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志諸君、よく聞いて欲しい」
そして再び口を開いた。
「今我がフランスは危機に瀕している」
「革命の危機だ」
「違う」
タンヴィルの言葉に首を横に振った。
「それは我々の血だ。我々は敵と戦うよりまず先に身内で殺し合っている。同じフランスを愛する者達を」
「ジェラールは何が言いたいんだ」
市民達はそれを聞き大いに戸惑っていた。
「私の言うことは必ずわかってもらえると信じている」
彼は言った。
「今はわかってもらえなくともいずれは必ず」
「そんな事は有り得ない!」
タンヴィルはなおも言った。ジェラールは彼に顔を向けた。
「いや、有り得る。違うな、必ずある」
「クッ」
彼は歯噛みした。そしてまた沈黙した。
「今彼を断頭台に送ると我々は必ずやそのことで後悔する日が来るだろう。我がフランスの栄光を守る為にも私は断固として彼の命を救うことを望む!」
「裁判官!」
たまりかねたタンヴィルが叫んだ。
「彼のこれ以上の発言を禁じて下さい!彼は明らかに錯乱しています!」
「わかりました」
裁判官達は頷いた。そしてジェラールに対して言った。
「弁護人、それ以上の発言を禁止します」
「・・・・・・わかりました」
不本意ながらそれに従った。彼も決まりを破りたくはない。
「では判決に移ります」
裁判官の一人が言った。そして陪審員達に顔を向けた。
「お願いします」
「わかりました」
彼等は答えた。そして彼等は口々に言った。
「有罪」
と。元々決まっていたことだ。
全員有罪であった。そもそもこの陪審員も皆ジャコバン党員である。服や外見だけでそれが容易にわかる。
「では判決を下す」
裁判官の中央の者が木槌を叩きながら言う。そして判決文を読み上げる。
「詩人アンドレア=シェニエを革命に反する罪で死刑とする」
誰も驚かなかった。皆それが当然だと思っていた。
シェニエもである。彼は昂然と胸を張ってそれを聞いていた。
タンヴィルは誇らしげにその判決文を聞いた。彼のいつもの動作である。
だが市民達は沈黙していた。誰も一言も発しなかった。
「いつもはあれだけ騒がしいのに」
陪審員達もそれを見て不思議に思った。
「これは一体どういうことだ」
彼等もその異変に気付いていた。何かが違った。
「マドモアゼル」
ジェラールは傍らにいるマッダレーナに顔を向けた。
彼女の顔は蒼白となっていた。だが泣いてもなく、取り乱してもいなかった。
あくまで毅然として立っていた。表情は険しかったが自らの沸き起こる感情に必死に耐えていた。
ジェラールはそれを見て安心した。見ればシェニエは今彼の前に来ていた。
「有り難う」
そして右手を差し出してきた。
「礼には及ばない。私は彼
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