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ヴァレンタインから一週間
第25話 夢
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 しかし……。

「未来は判らない」

 そう続ける俺。
 実際、依頼して有る彼女の過去は人工生命体。水晶宮関係の人工生命体で有る以上、おそらくは那托(ナタ)。蓮の花の精となる公算が高い。
 このような通常の生命体と比べて異常な能力を持った存在が、俺と共に歩めないような存在と成るとは思えない。

 但し……。

「未来は未来」

 俺は、右手を伸ばし、彼女の頬に手を当てる。
 その手の平が伝えて来たのは温かさ。彼女が、今そこに生きて、存在している証。

「今は異常事態。故に、俺と有希は一緒に居る。
 しかし、この事件が終れば、こんな人間関係に縛られる必要はない。
 オマエさん自身にやって見たい事が出来る可能性は有るし、それ以外の人間関係が出来上がる可能性も高い」

 その時まで、有希が自らの思いを殺してまでそんな事に拘る必要はない。
 俺は、そう彼女に語り掛けた。

 まして、今、彼女が抱いて居る感情は吊り橋効果のような物。更に、消えるしかなかった自らの生命を助けて貰った事に対する感謝の気持ちも大きい。
 そんな物で、未来まですべて決めて仕舞う必要など何処にも有りませんから。

 しかし……。

「大丈夫」

 有希は頬に当てられた俺の右手に、自らの左手をそっと添えながらそう答えた。まるで、愛しい物を包み込むような優しさを籠めて。

「あなたは最初から、わたしに自分で考えて行動する事を求めた。
 わたしには、それがとても新鮮な体験だった。
 わたしは、わたしの意思と判断で、あなたの考えに賛同している。
 それは決して強制されたからでも、そう思うように調整されたからでもない」

 其処まで一言一言に力を籠めるかのように。言葉に魂を籠めるかのように紡いで来た少女が、其処で一度、ゆっくりと瞬きをする。
 そして、次にその瞳を開いた時には、その瞳には決意にも似た色を浮かべていた。

「わたしは、わたしの意思と判断で、あなたと共に有る事を望んだ」

 彼女に相応しい声で、その瞳に俺を映しながら。

 ………………。
 …………。
 伸ばされた俺の右手は未だ彼女の頬と左手の間に。
 そのどちらからも、彼女の温もりと優しさを伝えて来て居た。

「ありがとう、な」

 俺は短く。しかし、真っ直ぐに、その時の気持ちを言葉にして、彼女に伝えたのだった。


☆★☆★☆


「それでな、有希。さっきのムカデの話なんやけど、実は、全部終わった訳ではないんや」

 俺の右手が解放され、但し、永遠にも等しいと思っていた二人の距離が近付いた後の俺の言葉。
 確かに、先ほどの会話だけで、有希が求めて居た部分の説明は終わったと思います。しかし、実はもっとも危険な部分の説明が
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