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ヴァレンタインから一週間
第25話 夢
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が、一人の少女を抱きしめていた。
 身長差からか、俺の胸に顔をうずめるようにしたショートカットの少女の背中に、優しく両の腕を回すようにして。
 そして、その少女の手を濡らす紅き彩と、俺の身体の中心から流れ出して行く生命の源。

 そう。俺の身体を貫く、少女が手にした短剣。
 彼女と、俺の身体を伝って大地に零れ落ち、紅い色の水溜まりを更に大きくして行く。



「いや、あれは、お前……。綾が悪かった訳じゃない」

 俺は、まるで独り言を呟くようにそう答える。いや、明らかに、先ほどの少女からの謝罪の言葉に対しての答えではなく、今の言葉は、フラッシュバックされた記憶に対するもの。
 その瞬間、俺の右手が握る手から少しの緊張感が伝わって来たような気がした。

 この右手に因って繋がっている相手は、綾ではないのか……。
 俺は、そんな微かな疑問に囚われながらも、それでも尚、彼女への言葉を続ける。

「あれは、カナーンの戦士の神。バールに操られた結果」

 瞳を閉じて、彼女の気配と手の柔らかさ、そして体温を感じようとする。
 そう、視覚情報を自らカットする事で、より傍に居る少女を……。少女の心を掴もうとしたのだ。

 しかし……。

 ゆっくりと、二人の間に時間だけが過ぎて行く。
 感じるのは、繋いだ手の温もりと、彼女の吐息。

 続く沈黙に少しの不安に感じた俺が身体を起こし、彼女が居る場所……。何時も、俺の右側に居る彼女の姿を自らの瞳で確認しようとする。
 しかし、その刹那。

 ゆっくりと繋がれていた右手が解かれ、代わりに彼女の繊手が俺の未だ閉じられたままの目蓋を覆った。
 そう。普段よりも彼女は一歩余分に近付いて居たのだ。

 そうして、

「未だ傷付いた内蔵の処置と、失った血液の補充が終了した段階」

 吐息の掛かる距離で囁かれる彼女の言葉。少しの違和感が有りながらも、何故か、不思議な安らぎを得られる。
 そう。彼女が無事だった事が……。

「わたしはあなたの傍に居る。だから……」

 もう少し、眠って居て欲しい……。
 その言葉を右の耳が捉えた瞬間、再び俺の意識は眠りの領域へと落ちて行った。


☆★☆★☆


 まるで縫い付けられたかのような重い目蓋を開く俺。

 見覚えのない、少しクリーム色がかった天井。灯された室内灯の明かり。
 足元の方に存在する大きな窓。そして、外からの視線を遮る為に施された薄い紗のカーテンと、その外側に有る厚手の花柄のカーテン。

 本棚だけが存在している殺風景な室内。その一方の壁に押し付けられるように配置されたベッド。
 その柔らか過ぎるベッドを占拠しているのが俺。

 ………………。
 …………。

 間違いな
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