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ヴァレンタインから一週間
第25話 夢
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って居ても良い状況ではない。
 本当は、汗を吸った下着を変えたかったのだが……。

 その俺の言葉を聞いた蓮花が、繋いだ手を少し強く握って来る。
 そして、そのまま俺の直ぐ傍。右肩の横にまで近寄って来る気配を感じた。

「大丈夫」

 普段通り、彼女に相応しい口調でそう話し掛けて来る蓮花。そう。無機質で抑揚の少ない、感情の籠る事のない口調。
 しかし、口調とは裏腹に、彼女の手は柔らかく……。

 そうして、俺と繋ぐ事に因って温かくなっていた。

「今は、何も心配せずに眠って欲しい」

 僅かに屈み、耳元でそう囁くように話し掛けて来る蓮花。しかし、彼女との実際の距離に反して、声から感じる距離は酷く遠い場所からの声に聞こえていた。

 そうして……。
 そして、その声を聞いた瞬間、俺の意識は再び、眠りの世界へと誘われて行ったのだった。


☆★☆★☆


 何かが身体の中心を貫いた。
 激痛? いや、異常に熱を持つ何かを押し付けられたような感覚。

 その瞬間、意識を取り戻す。
 嫌な夢? いや、その割にはリアルな感触が、あれが現実の出来事で有った事を示して居る。

 しかし……。

 保安灯にのみ支配された室内は薄暗く、自分の置かれている状況がイマイチ理解出来ない。
 身体は嫌な夢を見たから――――
 ――汗を掻いていて非常に不快。そう考え掛けてから、しかし、その考えを直ぐに否定。
 そう。この汗の掻き方は少し異常。嫌な夢を見たから汗を掻いた訳ではなく、大量に汗を掻いたから嫌な夢を見た。こちらの方が正しいような気がする。そして、現在の状態を、自らの乏しい経験から推測させて貰うのなら、解熱作用を伴う痛み止めを使用した際に、このような寝汗と、更に嫌な夢に因る覚醒を繰り返した経験が有る。

 但し、魔法が実在している世界で痛み止めや、それに類する作用を及ぼす薬品を使用する怪我と言うのは……。

 ぼんやりと、暗い夜の色に覆われた天井を見上げながら、そう考える俺。
 更に、俺を困惑させて居るのは、この右手が伝えて来る優しい感触。

 この優しく、華奢な手の温もりは……。

「ごめんなさい」

 自らの右手が握る柔らかな手の感触を確かめていた時、突然、掛けられる言葉。
 しかし、何故か、その声はかなり遠くから響く声のように。……まるで、薄い膜の向こう側から聞こえて来る声のような、酷く聞き取り辛い声で有った。

 そう考えた刹那、まるでこの瞬間に目の前で起こった出来事で有るかのように、何かの映像のフラッシュバックが起こる。
 これは――――



 空は忌々しい程に晴れ上がり、冷たい風がひとつに成ったふたりの身体に吹き付ける。
 その世界の中心で……。

 俺
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