第一幕その一
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むし何かと親身になってくれる。だから使用人達には評判がいい。
「そう思うだろう。わし等が今こうしていられるのも御主人様や奥方様のおかげだ」
家令は笑顔で言った。皆その言葉に頷く。
だが一人だけ別だった。ジェラールだけはその言葉に背を向けていた。
「じゃあ行こう。甘いお茶と美味しいお菓子がわし等を待っているぞ」
「はい」
彼等は部屋を出ようとする。だがジェラールだけは出ようとはしない。
「おや」
家令がそれに気付いた。
「ジェラール、君も来いよ。折角の奥方様からのご好意だぞ」
「いえ、甘いものは苦手ですので」
彼はそう言って断った。
「そうか、なら仕方ないな」
家令はそれを聞いて言った。
「じゃあ一人でゆっくり休んでいてくれ。わし等は向こうにいるから」
「はい」
ジェラールは彼等を見送った。
「本ばかり読んでないでたまにはわし等と一緒にくつろぐのもいいぞ」
彼はそう言ってサンルームをあとにした。そしてその場を他の者達を連れてあとにした。
「さてと」
彼は空いている場所に腰掛けようとした。だが側にあるソファーを見下ろした。
「御前は気楽なものだな。そうやってそこで貴族共の相手をしていればいいのだからな」
彼のその声は嫌悪に満ちたものだった。
「あのキザで鼻持ちならない連中の相手はさぞ楽しいことだろう。昨日もあの若い嫌味な修道僧が付けボクロをした男爵夫人に声をかけるのを楽しそうに見ているだけだった」
彼は貴族達を心の奥底から嫌悪していた。いや、それは憎悪であった。
「厚化粧をして滑稽な髪形をしたあの忌々しい女達。あの連中の情事を受けていればいいだけだしな」
当時のフランス貴族達はロココの中に溺れていた。酒と飽食、そして荒淫の世界に住んでいたのだ。
それに対して民衆の生活は質素なものであった。ジェラールはそれが許せなかったのだ。
「神がそれを許すというのか!?だったらそんな神なぞいらない。俺は俺の信念のままに生きたい」
正義感の強い男であった。そして生真面目であった。
そこに一人の年老いた男が入って来た。ジェラールと同じ服を着た白髪で皺だらけの顔をした小柄な老人だ。
「お父さん」
彼はその老人に声をかけた。
「おおジェラールか。皆はどうした」
「向こうで休憩をとっています。何でも奥方様からいただいたお菓子があるとか」
「そうか、それは有り難いのう」
彼はそう言うと歯の殆ど残っていない口を開けて笑った。
「いつもあの方にはよくしていただいている。それに報いなければのう」
彼の父は善良な男であった。ジェラールは幼い時に母を亡くし以後男手一つで育てられてきたのだ。
「庭の方は終わったぞ。御主人様も奥方様もわしが手入れした庭が一番じゃと言って下さる。有り難いこと
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