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アンドレア=シェニエ
第二幕その八
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が今では大輪になっていた。
「シェニエ様」
「はい」
 マッダレーナが言葉をかけてきた。
「あれから色々とありました。その中で私は貴方のことを思うようになったのです」
「私のことを」
「そうです。夢に見たことも幾度もありました。私は最初何故だかわかりませんでした」
「夢にまで」
「はい。そして革命の最中私は考えました。この激動の中で」
「大変だったでしょう」
「いえ」
 口では否定してもその記憶までは否定できない。多くの苦難が彼女を襲った。
「ベルシがいましたから。私の親友が」
「彼女が」
「はい。身を売ってまでして私を守ってくれました」
「何と」
 シェニエもそれには口を固く閉ざした。
「そこまでして貴女を」
「私も身を売る以外のことは全てしました。家のものも何もかも売って服さえも売って」
 彼女の家には資産があった。革命派に奪われる前にそれを売ったのだ。
「賄賂にもなりました。生きる為の」
「ジャコバンの者達にですね」
「ええ。そうして何度も危ないところを切り抜けました」
「大変だったでしょう」
「いえ、ベルシに比べれば」
 彼女の家はマッダレーナの家程多くの資産はなかった。そして屋敷を襲われそこで両親も家族も殺された。かろうじて逃げ延びた彼女だが残ったのはその身一つだったのだ。女性が生きていくには娼婦になるしかなかったのだ。
「そして私達はこのパリで隠れる様にして生きてきました。その中で貴方のお話をお聞きしたのです」
「私のですか」
「そうです。そして次第に貴方へのお気持ちを抑えられなくなりました。そして遂に抑えきれなくなり手紙をお送りしたのです」
「それがあの一連の手紙だったのですね」
「はい」
 マッダレーナは頷いた。シェニエはジャコバン派を批判する者として度々話題になっていたのだ。ロベスピエールも彼を危険視するようになっていた。
「そして今貴方にお会いする為にここへ来ました」
「危険も顧みずに」
「危険なぞ今まで幾度も切り抜けてきました。今更何程のことがありましょう」
 シェニエはその言葉にまた感じ入った。
(彼女はもう貴族の深窓の令嬢などではない)
 そう、かっての彼女は死んでいたのだ。
 今ここにいるマッダレーナはかっての幼虫から美しい蝶へと変わっていた。外見だけでなく心もだ。
 シェニエは彼女に魅せられてきているのを感じていた。彼はそれを拒まなかった。
「お聞き下さい」
 マッダレーナは言った。
「この一月の間私は誰かにつけ回されています」
「ジャコバン派の密偵ですか!?」
「わかりません。おそらくはそうだと思いますが」
「厄介ですね。私もマークされていますが奴等は極めて執念深い」
「わかっています。しかしそれでベルシに迷惑をかけるつもりはありません
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